夜を繋いで君と行く

* * *

「ん…。」

 カーテンを少し開けて眠って正解だった。朝の光に反応して、怜花は自然に目覚めた。意識が少しずつはっきりしてくると自分の腹部に回った腕に気が付いた。

(…う、動けない、かも。…初めて…だな…。寝てる間にこんなに強く抱きしめられたのなんて…。)

 いつものベッドよりも狭いというのもあったのかもしれない。ただ、普段はほどよく力の抜けた状態でゆるく腕が回っていることが多い。だからこそこの強さに慣れなくて、妙に心臓がドキドキしてしまう。少しだけ視線を後ろに向けて律の寝顔を見つめるか、もう少し首を伸ばしてデジタル時計を見るくらいしか今の怜花にできることはない。
 寝坊していたら困るため、時計を見やると6時半を少し過ぎたところだった。今日の舞台挨拶の会場はこのホテルから近いということもあり、朝はホテルの朝食ビュッフェを食べてからゆっくり出発することになっている。この時間に律を起こしてしまえば早すぎる。

(…どうしよう…。目がはっきりと覚めちゃった…)

 律はといえばすうすうと寝息が小さく聞こえている。背中から抱きしめられているため、表情はわからない。怜花はそっと怜花の腹部を自分の方に強く引き寄せている律の腕に自分の手を添えた。

「…そんなに力を入れなくたって大丈夫なのに。」

 どこにも行かないし、泣かれたって甘えられたってどうにかしたい。そんな気持ちをもってここにいる。怜花が触れてしばらくすると、律の腕の力が緩まった。そして怜花の耳元に、律の吐息が触れた。

「…はよ。…まだごろごろしててもいい時間…だよね?」
「うん。まだ寝てていいよ。昨日、ストンと寝てたし…疲れが溜まってるね、律。」

 怜花がそう言うと、律の腕が完全に離れた。と思ったすぐそばから、律は怜花の肩を引いて自分の方を向かせながらまっすぐに抱きしめた。ゆっくりと呼吸をする音が聞こえる。怜花は自由のきくほうの腕を律の背中に回して、軽くポンポンと叩く。

「…やだ、その寝かせるみたいなポンポン。寝ないし。」

 そう言って律はぎゅうっと腕の力を強めた。少し苦しいが、耐えられないほどではないためそのままにしておく。

「…寝てってことじゃなくて、そんなに強くぎゅってしなくても大丈夫だよのポンポンだよ。」

 諭すつもりでそう言ったのに、律にあまり効果はないようだ。力は緩まない。

「律…?」
「怜花が起きた時も、強かった?」
「え?」
「…なんか、壊れちゃってんね、加減が。いつもはもっと、怜花が苦しくなんないようにって思えるのに。…今日は腕がバグっちゃってる。ごめん。」

 腕が緩むと律の表情がようやく見える。少し下がった目尻と、まだわずかにぼんやりとした目にうっすらと寂しさのようなものが見えた気がして、怜花は律の頬に触れた。