律の声がいつもよりもずっと甘えたものに聞こえるのは、本当にそうだからなのかそれとも単にそういうフィルターがかかっているからなのかはもう怜花にはわからない。怜花は抱きしめる腕の力を緩めないまま答えた。
「…しばらくだめって、言った。」
「しばらくってどれくらい?」
「髪乾かし終わって、歯磨きも終わって寝る準備全部終わったら。」
「…結構長くない、それ。」
「律がすぐ与える側に回っちゃうから!」
「…違うよ。」
怜花の肩に額を乗せ、少しぐりぐりと動かしながら律が口を開いた。
「怜花を抱きしめるのは、怜花に安心を与えたくてとかそういうのじゃない。…むしろ俺が与えられてんだよ。あったかいもの、受け入れてもらえる場所、そういうの。…それでも、抱きしめるのはまだだめ?」
「っ…で、出た!その声!」
怜花は片腕を離し、そっと囁かれた自分の耳に触れた。おそらく赤くなっているだろうし、ちゃんと熱い。腕が離れたことを感じた律の左腕が怜花をぐっと抱き寄せた。
「…うん。やっぱり、…抱きしめられるのもいいけど、怜花は抱きしめたいな。」
「な…なんで…?」
「…ちゃんと自分の腕で、捕まえていたいから。」
「…抱きしめるのが下手だからとかじゃなくて…よかった、けど。」
「怜花のハグは、なんかぴったりくっついてくれるよね。あと、細いのに意外と力あるからびっくりする。」
「か弱くない、からね。」
「うん。…そうだね、怜花は弱くない。ここのところは怜花にずーっと頼りっぱなしで嫌になっちゃうなぁ、俺。全然、こんなんじゃなかったんだけど。」
以前の律にとって嫌なことが起こったとき、その頃はどうしていたのだろうと抱きしめられながらそんなことを思う。仕事の量を増やして別のことに意識を集中させたのかもしれないし、ただ誰もいない空間でじっとしていたのかもしれない。自分と同じ、眠れない夜を繰り返していたのかもしれない。律の繊細さに触れ、最初に見せられていたスマートさが剝がれていくにつれて、律の過去を思う。九重の話も今は記憶に新しい。まだまだ怜花の知らない律の顔はある。焦ったところで全てを一気に見れるわけでも、全てを受け止められるわけでもない。だから今、律が安心して眠ることのできる夜を作りたい。
「…そんなの、私もだからね。全然、こんなんじゃなかった。電話一本で新幹線に飛び乗るフットワークはないし、人の腕の中で眠って朝を迎えるなんてことも、…できなかった。」
「…もう無理だね。怜花が腕の中にいてくれないと、…こういう夜は俺が眠れない。」
「よし、じゃあ髪乾かそう。眠くなるまで時間かかっちゃうかもしれないし。律は座ってて。」
律の腕の中から抜けた怜花はドライヤーを取りに洗面台まで駆けていった。
「…しばらくだめって、言った。」
「しばらくってどれくらい?」
「髪乾かし終わって、歯磨きも終わって寝る準備全部終わったら。」
「…結構長くない、それ。」
「律がすぐ与える側に回っちゃうから!」
「…違うよ。」
怜花の肩に額を乗せ、少しぐりぐりと動かしながら律が口を開いた。
「怜花を抱きしめるのは、怜花に安心を与えたくてとかそういうのじゃない。…むしろ俺が与えられてんだよ。あったかいもの、受け入れてもらえる場所、そういうの。…それでも、抱きしめるのはまだだめ?」
「っ…で、出た!その声!」
怜花は片腕を離し、そっと囁かれた自分の耳に触れた。おそらく赤くなっているだろうし、ちゃんと熱い。腕が離れたことを感じた律の左腕が怜花をぐっと抱き寄せた。
「…うん。やっぱり、…抱きしめられるのもいいけど、怜花は抱きしめたいな。」
「な…なんで…?」
「…ちゃんと自分の腕で、捕まえていたいから。」
「…抱きしめるのが下手だからとかじゃなくて…よかった、けど。」
「怜花のハグは、なんかぴったりくっついてくれるよね。あと、細いのに意外と力あるからびっくりする。」
「か弱くない、からね。」
「うん。…そうだね、怜花は弱くない。ここのところは怜花にずーっと頼りっぱなしで嫌になっちゃうなぁ、俺。全然、こんなんじゃなかったんだけど。」
以前の律にとって嫌なことが起こったとき、その頃はどうしていたのだろうと抱きしめられながらそんなことを思う。仕事の量を増やして別のことに意識を集中させたのかもしれないし、ただ誰もいない空間でじっとしていたのかもしれない。自分と同じ、眠れない夜を繰り返していたのかもしれない。律の繊細さに触れ、最初に見せられていたスマートさが剝がれていくにつれて、律の過去を思う。九重の話も今は記憶に新しい。まだまだ怜花の知らない律の顔はある。焦ったところで全てを一気に見れるわけでも、全てを受け止められるわけでもない。だから今、律が安心して眠ることのできる夜を作りたい。
「…そんなの、私もだからね。全然、こんなんじゃなかった。電話一本で新幹線に飛び乗るフットワークはないし、人の腕の中で眠って朝を迎えるなんてことも、…できなかった。」
「…もう無理だね。怜花が腕の中にいてくれないと、…こういう夜は俺が眠れない。」
「よし、じゃあ髪乾かそう。眠くなるまで時間かかっちゃうかもしれないし。律は座ってて。」
律の腕の中から抜けた怜花はドライヤーを取りに洗面台まで駆けていった。



