夜を繋いで君と行く

「本当だよ。事務所で三澄さんに出くわしちゃったから、そこから伝わった?」
『うん。事務所で会うなんて思ってなかったから驚いたって…。それで、二階堂さんは…?』
「まだ元気って感じではないけど、会えた会えた。三澄さんももしかして心配してる?」
『…うん。舞台挨拶の記事見た感じだと大丈夫そうなのかなとも言ってたけど、…ちょっと声は心配そうだった。』
「そっか。…じゃあそれも伝えておくよ。…ありがとね、里依。」

 里依の言葉も声もずっと柔らかくて優しい。昔からいつも、里依の声に何度だって安心をもらってきた。そんな里依は少し押し黙って、わずかな沈黙の後に話し始めた。

『怜花は大丈夫?』
「うん。…でも、もうちょっと頑張りたいかも、色々と。」
『頑張る?』
「うん。…律が疲れてるのもそうだけど…もうちょっと気持ちが暗いままでいなくてもいいようにしてあげたいっていうか…。」
『…そっか。それは怜花が頑張るしかないね!』
「…里依はそういうの、上手だよね。…いいなぁ。」

 思わず零れた本音。里依は自分にないものをたくさんもっている。それはずっと、出会った時からそうで、里依のもつものは自分にはきっと一生手に入らないものだと思っていたから眩しくて、憧れた。誰かの心にすっと入っていく言葉を、何の気なしに言うこと。本当に辛いときに、優しいその腕で抱きしめてくれること。里依の優しさは、怜花の心の奥底にずっとある。それがなければきっと今の自分はもっと嫌な人間になっていたはずだ。

『そう、かなぁ…自分じゃよくわからないけど。でも、上手とか下手とか、そういうの関係ないよ。怜花が泣いてたら嫌だから、傍にいたし話を聞いた。…ただそれだけだよ。怜花が辛いの、私が嫌だったんだよ。怜花も同じじゃない?』
「…うん。そうだね。里依が泣いてるの、私も嫌。」
『二階堂さんが辛い思いしてるの、自分のことみたいに嫌だって思って、…いいんだと思う。だから、怜花が心配だったって気持ちをそのまま言っても大丈夫だよ。いてもたってもいられなくて、駆けつけちゃうくらい心配だった。…それもね、すごいことだなって私は思う。やっぱり怜花はかっこいいね。いざって時の行動力と判断力は、ずっと間違ってない。』
「…だと、いいんだけど。」
『さっき頑張りたいって言ってたじゃん!なんですぐそうなっちゃうの!』
「里依の前でくらい、弱音吐かせてよ~…とんでもないことしてるなって薄々思ってはいるんだからさぁ…。」

 これは本音だった。やってしまった後に思っても遅いことはわかっているが、今までの自分だったらやらなかったことを平気でしてしまっている。

『ほんとにね!びっくりしたよ。でも、…私が二階堂さんだったら嬉しいな。怜花がいてくれたら、ちょっとの無茶もできちゃいそうな気がする。』

 里依の言葉に、怜花の口元にも笑みが戻る。丁度その時、バスルームから律が出てきた。

「あ、ありがと、里依!私、頑張るから。」
『うん、頑張れ怜花。…大丈夫だよ。』
「うん。」

 何かを察した里依の方から通話は切れた。髪を無造作にタオルで拭きながら出てきた律の表情は、やっぱり少し暗かった。