夜を繋いで君と行く

「…そんな、えっと、…私はそんな、すごい人じゃなくて…。その、九重さんみたいに敏腕マネージャーというわけでもなければ、…声優でもない。普通のその辺の人なんです。だから…そ、そこまで言っていただけると思ってなくて…ありがたいのに、上手に受け取れなくてすみません。」

 何も言えないことは失礼だと思ってしどろもどろになりながら言い終えると、あまりのまとまってなさに改めて自分の普通さを痛感する。九重や舞台挨拶の時の律のようには話せない。

「…なるほど。あなたは二階堂さんと同じ香りがする人なんですね。」
「え?」
「少し言葉は違いますが、同じようなニュアンスで二階堂さんに返されたことは何度もありますね。何年も前の話ですけど。」
「同じ香りって…どういうことか聞いてもいいですか?」

 怜花が問いかけると、九重は頷いた。

「人間からの評価というものは、評価する人間の数だけ存在するものですが、その悪い面はそのまま受け取るのに、良い面、…そうですね、言い換えれば『自分にとって都合が良い』面はそのまま飲み込まない。嬉しいという気持ちはあっても、です。」

 九重の言葉は、まっすぐに怜花に刺さった。九重の言う一字一句そのまま、自分に当てはまっていてまるで心が読まれている気持ちになる。

「二階堂さんはとにかく自分に厳しく、仕事も限界まで入れることを厭いません。むしろ暇を嫌ってすらいます。家に帰らず事務所に寝泊まりすることも多い時期がありました。あれだけの気配りができて、声優としても申し分なく仕事ができているのに、それでもそれに対する正当な評価の声はまっすぐに飲み込めない。…似てるんですね、お二人は。十分すぎるほど努力なさって、心を尽くしているのに、…尽くしすぎて乾いてしまった心に水を与えることは許さない、みたいなところが。」
「…九重さんは、あの…心理学を勉強なさってました、か…?」
「ということはかなり当たってましたかね?」

 はは、と軽く笑いながらそう言った九重に、笑いながら言うことでもないとは思いつつも、怜花は頷いた。

「特にそういったことは学んでいません。ただ、人間観察は好きですね。その人の思考回路のパターンを見ていくことが好きというか。…あ、警戒しないでくださいね。だから何をするというわけではなく、ただ…二階堂さんの横に、近いけれど違う強さももつ人がいることは、少なくとも二階堂さんにとってはいいことだと僕は思います。怜花さんは振り回されて大変かもしれませんが。」

 九重の言葉に怜花は首を横に振った。すると九重は『それならいいんです』と言って、静かに笑みを浮かべた。