夜を繋いで君と行く

* * *

 舞台挨拶を2つ終え、律は控室で九重の迎えを待っていた。五十嵐は大阪の他の劇場で客に混ざって映画を鑑賞するらしく、早々に控室を出ていた。
 しばらくしてコンコンと控室のドアがノックされた。

「どうぞー。」
「二階堂さん、お疲れ様です。そして朗報です。」
「朗報?」

 ドアの奥からひょこっと顔を出したのは…

「え…え!?なんでいるの!?」
「…い、色々乗せられた結果っていうか…その、九重さんとのタッグの結果…?あと、笹塚さんの奥様が絶対行きなさいって…。」
「待って待って。笹塚さん?」

 頭を指で少し掻いた怜花が、目を泳がせながら立っていた。

「怜花さん、中へどうぞ。」
「は、はいっ!」
「…ちょっと待ってよ。何?俺が知らないところで何したの、九重くん。」

 律が九重をじろりと睨むと、九重はわざとらしくはーっとため息をついた。

「何ですか、二階堂さん。僕は二階堂さんのために最善を尽くしたっていうのに、そんな顔で睨まれるようなことは一つもしていないと自負していますが?」
「ちょっとさ、移動しながらでも何でもいいけど説明だけお願い。そもそも怜花はなんでスーツなの。」
「では説明しましょう。怜花さんは『新人マネージャー』という設定で派遣された、という体だからです。二階堂さんの出張への帯同の仕方や手続きなどの手はずを僕から指導される立場であるという形で紛れ込ませています。」
「は…?」
「ご、ごめんね、勝手なことして。冷静に考えれば家でじっとしてた方が良いのは百も承知なんだけど…。」

 怜花が慌てて謝ると、九重は一歩進み出た。

「今日という一番きついであろう舞台挨拶を終えてもなおまだ残る舞台挨拶はある。とするならば、僕は二階堂さんの精神がもたない、と判断しました。そこで怜花さんに救援を要請しました。怜花さんは二階堂さんの心を復活させる『唯一無二』です。少しでもお会いになれれば、まあ数日は頑張れるだろうと踏みました。」
「…その見立て、合ってるから腹立つねー。」
「まぁでも、二階堂さんが舞台挨拶前に、再起不能になるほど彼女に対して釘を刺すとは思いませんでした。」
「…再起不能、ねぇ。どうかなって。今日は出てこないけど、明日はわかんないよ。だって全然、凝りてる顔してなかったから。」

 律の表情が陰ったのを感じて、怜花がゆっくりと律への距離を縮めた。そしてそっと律の手を取る。

「…今日の分はお疲れ様。明日のことは明日の前に少しだけ考えよう。」