夜を繋いで君と行く

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 結局舞台挨拶の時間になってもゆりあは現れなかった。その方が都合がよくて安堵してしまう程度には心の中は素直だった。

「では、大きな拍手でお迎えください。五十嵐明之監督と二階堂律さんのご登壇です。」

 大きな拍手とフラッシュ撮影に包まれて打ち合わせ通りの道を歩く。スクリーン前の指定された位置まで来ると、司会が律に目配せした。司会にも五十嵐にも話は通してある。律はマイクを持ち直した。

「本日お越しのお客様および取材関係の皆様に、まず最初に先日出されました記事についてお話いたします。あの記事は事実とは異なっており事実無根の内容です。本日お越しのお客様の中には上映前に不要な情報で心を揺らした方もいらっしゃったかと思います。ご心配や不安、不快な思いをさせてしまい申し訳ありませんでした。星宮さんは本日体調が優れず、僕だけという少しインパクトに欠ける形ではありますが、今日は張り切って3人分くらい話しますのでご容赦ください。よろしくお願いします。…ということで、いっぱい話しますのであの、戻しちゃってもいいですか、進行を。」
「はい、進行します!」

 律は周囲にぺこぺこと頭を下げながら数歩下がった。五十嵐は律を見つめてにこっと微笑んだ。

「ではさっそく進めて参りましょうか。二階堂さんもたくさん話してくださるということで。…というのも、結構舞台挨拶では話さないタイプですよね、二階堂さん。」

 司会は比較的律の出ている作品でよく顔を合わせる人だったので、気心も知れている。司会のパスのおかげで少しずつ会場の堅苦しさが解けていく。

「…え、それ、僕がちゃんと舞台挨拶の意味を理解してないって言ってます?」
「違いますよ。ただ、主演でも結構引き立て役になって自分から話さないなと横から見ていて思うというか。」
「声優ってお喋りじゃないですか。なので人数が多いときはもうみんなにお任せって感じで。見ちゃうんですよね、みんなの話しっぷりを。でも今日はね、監督と僕だけなので僕がいっぱい話さないとと思ってます。」
「監督は二階堂さんと仲が良いと伺っていますが…。」
「あぁ、はい。仲が良いというか、そもそも僕がね、二階堂くんのファンなんですよ。だってもう、アークの声がぴったりじゃなかったですか?ね、皆さん。あ、ほらほら、頷いてらっしゃる方がいっぱいいます。ね。」

 五十嵐は客の生の反応を受け取ることができてずっと嬉しそうだ。作品がこうやって完成し、人の前に出されて初めて監督たちのような『作り手』は作品の感触を知る。

「アークのような繊細で、一歩間違えば一瞬で壊れてしまいそうな影のある少年。それをね、二階堂くんに演じてほしかったんです。」
「…恐縮です。ありがとうございます。…僕、繊細ですか?」
「繊細ですよ、とてもね。」
「影、ありますか?」
「言っていいのかな、これ。」
「あ、やっぱりすみません!言わないでください!影があるって言われた時のリアクションが困るんで!」