夜を繋いで君と行く

「…え…?」

 本当に彼女には何も伝わらないみたいだと、直感的にわかる。『好かれない』自分は彼女の想定の中にいない。

「もう一度言いましょうか。仕事だから仕方なく、あなたの隣に立たされている。それ以上でも以下でもないです。個人的な付き合いは現段階でないですし、今後もありません。今日の舞台挨拶では、この後監督に確認を取ってからになりますが、記事について事実無根であることを僕からお話させていただいて、まずは会場に足を運んでくれた方たちに純粋な気持ちで作品を見てもらえるようにしたいと思っています。」
「仕方ない…?」

 ゆっくりとゆりあの目が見開かれていく。そして次第に歪みかけていく。きっとこれは『泣く』というモーションに入る。
 本当に律が思っていた通り、彼女の誇張された大きな瞳からは見計らったように大粒の涙がこぼれ落ちた。

「ひっ…ひどい…です…私は…記事になるくらい仲良くなれて…嬉しかったし…もっと一緒に過ごしたら、もっと仲良くなれるって…思ってたのにっ…。」

(…声に温度が乗らなかったなぁ、さっきの。だってもう、彼女は俺から『奪いすぎた』)

 仕事だからと割り切って、空気が悪くならないように適当な笑顔で過ごしてあげた。会話もほどほどにしてあげていたし、腕を掴まれても強く振りほどくようなことはしなかった。ずっと彼女が過ごしやすいように『してあげていた』のだ。その結果、息苦しくなって眠れなくなったのは自分だった。もうこれ以上、削るわけにはいかない。自分を削ると、怜花が心配する。怜花にはなるべく笑っていてほしい。それを願うなら、自分を削って蔑ろにしてはいけないのだ。

「僕は仕事とプライベートを混同する人と仲良くはなれません。舞台挨拶は普通にします。でも距離は取らせてもらいます。これは自衛です。」

 泣き続けるゆりあの前でも特に言いたいことを緩めるつもりはなかった。一度『悪人』になったのだ。だとすればあとはどれだけ言ったって同じだろう。

「僕がいないほうが泣き止めるのであれば退席します。どうしますか?」
「…っ…!」

 一度キッと律を睨んだゆりあは、そのままバタバタと部屋を飛び出した。
 彼女のいなくなった静かな部屋で、律はそっと椅子の背を引いてそのまま腰を下ろした。ふぅーっと長く、息を吐いた。

(あー…これで戻ってこなかったらまずいかなぁ、まずいよなぁ。でもここで泣いてもどって来ないような子供なら、この世界には要らないんだよ、『星宮ゆりあ』)

 冷たい人間だと罵られてもいい。そんなことはどうだっていい。ただ誠実ではありたい。作品にも、大切だと思う人にも。