私の婚約者は、嘘ばっかり〜クズだけど優しい彼〜

七瀬くんがこっちを向いた、柔らかい目をしていた。

そんな目で見られたら、少しずつ心臓が音を出して。

「だから、あの日衣咲さんに伝えようと思ったんです」

あの日…?
あのエレベーターでの中のこと…

「でも衣咲さん逃げるみたいに帰っていったんで」

「あ、あれは…!」

「そーゆうところです、衣咲さん」

なぜか七瀬くんが怒ってる、声が強くなるから。

「だから抜けてるって言われるんですよ」

な…っ

そんなに面と向かってハッキリ…!

しかもちょっと気だるそうにして、なんで今七瀬くんにそんなこと言われなきゃいけないの!?

「あれは七瀬くんが!もうやめたいって言ったからすぐにもうなしでいいって…っ」

「だから、俺がやめたいって言ったのは“婚約者”じゃありません!」

さらに声に力の入った七瀬くんが大きな目で私を見たから。

「……え?」

ぽかんと口を開けてしまった。
七瀬くんの眉間にはしわが寄っている。

「まぁ要はまったーく伝わってなかったってことですよね」

え、何が?何の話…

「衣咲さん?」

「…あ、ごめん。ちょっとわからなくて…えっと何?」

目をパチクリした七瀬くんがはぁ~っと長い息を吐く、それはまるで落胆するみたいに。

え、なんで?どうして…

「まだわからないんですか」

きょとんとする私に七瀬くんが呆れ顔でため息をつく。

細めた目で見られるのはなんかつらい。


でも次の瞬間…

そっと近付いた。


静かに息をするみたいに。



「俺、衣咲さんが好きです」



のぞき込むようにして、あまりに優しく笑うから。


「あれは嘘じゃないですよ?」


ドキドキと胸の音が大きくなる、七瀬くんの顔を見たら止まらなくなる。

動けなくなる、もっともっと近付いて…



そっと目を閉じる。

ここは、高級料理店の日本庭園だったのにね。
でもそんなの関係なくて、七瀬くんといたら七瀬くんしか見えないから。


でもそれがいいの。
見繕わなくていい私でいていいって言ってくれるみたいで。



七瀬くんの温度を唇に感じたから。


息も出来ないほどにー…



「ちゃんと、伝わりました?」



でも離れてしまったら、少し恥ずかしくて頬が熱い。

「…はい」