私の婚約者は、嘘ばっかり〜クズだけど優しい彼〜

それなのに無理やりこじ開けて中に入ってくるから。ぐいっとエレベーターを開けて中に乗り込んでくる。

「俺は衣咲さんのがいいんですけど」

「…っ」

「衣咲さんがいいです」

図らずとも、2人だけの空間が出来上がってしまった。

「…。」


近付いて、目を見て真っ直ぐ見つめて…

なんでこんなに近くにー…っ


「あのハート形の卵焼き可愛かったですね!」


ケロッと急に明るい声で、ニカッと笑った。

七瀬くんはすごい、私とは全然違って私だったら今そんな顔出来ないよ。

キュッと目をつぶってしまっていたのに、この状況から目を逸らしたくて。

「あんなの簡単だよ」

可愛げもなければ大人げもない、ただ歳を重ねた大人に過ぎないの。

「斜めに切った卵焼きを入れ替えて詰めてるだけだから」

ほらね、こんな言い方しかできない。
もう少し可愛く言えたらよかったのに…

「衣咲さんぽいです」

見繕うことに必死だから、少しでもよく見せたくて。

だから中身はちっとも備わってないの。


そうだね、まるで私だね。

わかってるよ、もういい加減わかってる。


あの卵焼きは私の見栄だよ。


だから…っ


「些細な気遣いが衣咲さんらしくて」


私らしい…?

「衣咲さんってなんでも丁寧ですよね、だから時間かかることもあると思いますけどそーゆうとこ俺は好きですよ」

じわっと瞳に熱を持つ。


胸が熱くなるの、わからないけど溢れそうになるの。

七瀬くんの言葉にはそんな力がある。


好きだなんて何年ぶりに言われたんだろう。

遠ざかっていた胸のざわめきが、呼び起こされる。



ドキドキして、心臓がうるさい。



「好きです」