一夜明けた放課後、僕は教室で途方にくれていた。
 巫女さんにお誘いを受けたのは、この上ない誉れなのだが、なにせ誘われただけで巫女さんの家がわからないのだ。

 昨日の様子では殿と巫女さん、何やら親しげだったことから、殿に掛け合えば巫女さんの家がわかるかもしれない。しかし、あれだ……。

 これだけははっきり言っておく。殿と関わりたくない。

 昨日の一日で、みてくれだけはスペシャル級に美しいナルシストは、僕に不幸をもたらすと学んだ。

 何度も言うようだが、僕はただでさえ不幸なのだ。

 昨日の下校時から、僕の不幸度はさらにアップしたような気がする。

 カラスに追い掛け回され、犬は吠えるに飽き足らず体当たりまでしてくるようになり、その直後、すれ違いざまの小学生に銀玉鉄砲で狙撃された。

 しかし。不思議なことが2つある。

 一つは、昨日、部室から出たあたりから、汗が噴きだすようになったことだ。

 スポーツはしていないが、持ち前の不運のせいで1日に5回は300メートルほど全力疾走を強いられる僕の体形は、言わば中肉中背。
 机に向かっているだけで、汗がでるようなメタボリックではないのだから不思議でしょうがない。

 そして、発汗と時を同じくして、無性に食べたくなるのだ。

 その……黄色いやつを、だ。20センチ程の細長のフォルムは、絶妙なカーブを描き、その上部の硬いところで何本か繋がっている。
 それを一本上部で千切り、筋にそって下方に皮をむくと、クリーム色の実が顔を出す。それを一口頬張れば、芳醇な香りと程よい甘さが口いっぱいに広がるのだ。

 僕はそれまで、それを好き、嫌いで区別したことが無かった。つまり、僕にとって、無くても困らない存在だった。

 それがなんだ。無性に食べたい。食べれば「落ち着く」というわけのわからない考えさえ浮かんでくる。
 今なら、そう、3本は連続でいけるぞ。頑張れば4本いけるかもしれない。