らくがきの中の君を、彷徨って見付けてさよならと言って

「千颯は今年も賞取れそう~?去年取ってたじゃん、特別賞!」

「あんなの偶然だよ」

「いやいや、すごいよ」

真っ白な画用紙を見るのはぐわーってテンションが上がる。何を描こうかなってワクワクして最初に描き始めるこのひと描きがたまんない、何もかも自分で描ける気がする。

「俺は咲茉のがよかったと思うけど」

「でも私何も選ばれてないし」

「じゃあ審査員のセンスがねぇ」

「審査員ディスり!?自分賞もらってるのに!」

高校に入ってまだ一度も賞を取ったことがない。
悔しいけど、それでも毎日描くのが楽しくてここへ来てる。絶対次こそは!って思いながら。

「あの色使いをわかってねぇんだよ、色選びと塗り方があざやかで繊細な表現してんのに」

「ありがとう、そんなに言ってくれて」

「構図だって視点が独特だし、そんな描き方もあるんだって発見になるしあれで賞取れないとか」

「褒めすぎだからそれ、逆に恥ずかしい」

そう言ってくれるのは嬉しいけど、そこまで言われるとなんていうか…

「本気で思ってるんだよ」

……。


本当に千颯だけ。


千颯はいつも私を見てくれる。

だから楽しいの、こうしていられる時間が好きなの。


何もないこの町で、千颯はいる。

千颯といる。


やっぱりまだ先のことは考えたくないかも。


千颯とこうして絵を描いていたい。

うっとおしいすべてを忘れて、絵を描いていたい。