らくがきの中の君を、彷徨って見付けてさよならと言って

「ってお母さんに言わた」

「だろうな、現実的じゃねぇからな」

次の日、美術室で千颯に話したらこれも即答された。
しかも私の方を見向きもしないでずっとキャンバスに向かって塗ってるし。

「昨日はいいよって言ったじゃん!千颯も行くって!」

「言ったけど、そんな甘くない世界ってことはわかってるだろ」

「…。」

そんなの…私だってわかってるよ。わかってるから言えなかったんだもん。

だけどそれでも絵が好きだから、描くことをやめられないからもっと目指したいんだもん。

「…って本気で思ってるんだけどなぁ」

窓際で頬杖をつきながら外を見てふぅーっと息を吐く。

1階の美術室はちっとも景色はよくないけど、しかも校舎奥にあるから見えるのは裏山だけ。空気は澄んでるか、なんとなくそう感じる。

「俺も思ってるよ」

千颯が塗り終えたのか筆を洗うバケツ、筆洗に筆を浸けた。

真っ直ぐ絵の方を見て真剣な眼差しで。

「咲茉が行くなら俺も行く、本気で」

その瞳のまま私の方を見るから。

「本気でって」

思わずくすって笑っちゃった。


千颯だけだもん、そんなこと言ってくれるの。

千颯だけだよ。