らくがきの中の君を、彷徨って見付けてさよならと言って

「次の授業物理かよだりぃな」

って喋ったら喋ったらで案外口悪いとは思わなかったけど。

「眠くなるよなー、何言ってるか全然わかんねぇし」

それは私もわからないから同意。

午後の授業が始まるお昼休み、開けた窓から顔を出して風に当たっていた。2階にある教室は美術室より景色はいい、ほとんどグラウンドだけど。

「すでに超眠い」

ふぁーっと千颯があくびをした。窓に背を向けてもたれながら、そんな横顔を見てた。

「ねぇねぇ千颯の前住んでたとこってどんなとこだった?」

「は?なんだよ急に」

「だって聞いたことなかったじゃん」

なんとなく、聞けなかったあの頃の千颯には。
でもちょっと気になってた、どんなところに住んでたのかなって。

「別に、普通のとこだよ」

「普通って?」

「住むのに困らない」

「…ここは困るよね」

かろうじてスーパーはあるけど、コンビニは歩いては行けなくて。

それも何不自由感じないくらい私はここで育ってきてるけど、千颯はどうなんだろう?

「別にここでも困ってねぇよ」

「そう?不便じゃない?電波入らない時あるよ?」

「別に」

それはさすがに私も困るけど、だって連絡したい時にできないんだもんめっちゃ困るよ。家にいても繋がらない時あるんだもん。

だから…

「会いに行けばいいだけだろ?」

「……。」

あ、今のはやばい。

ちょっとやばい。

息が止まるかと思った。

「逆に便利だろ」

「…そ、そっか」

そうか、そうなのか…

カラオケなんかなくてもいいかもしれない、そんなのなくてもワクワクするしドキドキする。ここはそんなとろこかも。