花火に消えた好き、夜空に残る君

夜空に大輪の花が咲いた。
ひゅるる、と上がった火が弾けて、金色のしだれが闇に降りそそぐ。
歓声が上がり、人の流れがいっそう激しくなった。

「わ、すご……!」
見とれて立ち止まった私の手を、ユリがぐいと引っ張る。
「ちょっと、はぐれるから気をつけなさいよ!」

けれど次の瞬間、背後から押し寄せた人波に押され、腕がすべり落ちた。
「ユリ!」
声を張ったけれど、返事は雑踏にかき消された。

必死に背伸びしても、浴衣の人の群れに遮られ、ユリもカイも見えない。
花火の光だけが不規則に空を照らして、心臓が早鐘を打つ。

(どうしよう……)

屋台の明かりがやけに遠く、賑やかな音がぼやけて聞こえる。
金魚の袋を握る手が汗で滑りそうになった。
周りは楽しそうに笑う顔ばかりなのに、自分だけが取り残されている気がした。

「……私、また置いていかれたのかな」
胸の奥がじんと痛む。
浴衣の裾をつまみ、必死に参道を歩いた。
提灯の明かりが揺れるたび、影が不安を煽る。

そのとき。
「――おい!」
聞き慣れた声が人混みの奥から届いた。

振り返ると、群衆をかき分けるようにしてカイが走ってくる。
肩で息をしながら、真っ直ぐにこちらを見ていた。

「どこ行ってたんだよ。……探した」

一瞬で胸の奥がほどけていく。
けれど声は出なくて、ただ首を横に振るしかできなかった。

彼は近づくと、迷いなく私の手を取った。
大きな手の温度が、花火の熱より強く伝わってくる。

「放すなよ。……ずっと」

「……うん」
頷いた途端、視界がにじんだ。
胸の奥に溜まっていた不安が、安心に変わって流れ出す。

二人で人波を抜け、少し開けた石段に腰を下ろした。
夜空では、ひときわ大きな花火が咲き散っていた。

「なあ」
カイがぽつりと口を開く。
「俺、昔からこうだったよな。お前がいなくなると、必死に探して……」

「……昔?」
思わず聞き返したけれど、彼はそれ以上言葉を続けなかった。
代わりに視線を花火へ向ける。横顔に赤と金の光が映えて、胸が締めつけられる。

私は言えなかった。
――私のことを、ずっと見ていてくれたの?
その問いを、喉の奥で押し込んだ。

夜空にまた大きな音が響き、二人の影が石段に揺れた。
握られた手の温度が、強く、確かにそこにあった。