花火に消えた好き、夜空に残る君

夏休みに入ってすぐの午前、校内のプールが生徒向けに開放された。
ユリに誘われ、渋々ついて来たけれど、入口を抜けた瞬間に後悔した。

真っ白な陽射しがコンクリートを照り返し、足裏がじりじりと焼ける。
水面はぎらぎらと光を散らし、歓声と水音が弾けていた。
まるで夏そのものに押し流されるようで、心臓がそわそわと落ち着かない。

「はいっ、入場〜。おお、思ったより似合ってんじゃん」
先に水着を披露したユリが、にやにや笑いながら私を見上げた。
「に、似合ってないから!」
タオルで体を隠そうと必死になる。

普段は地味な服ばかりだから、水着姿はやけに落ち着かない。
肌を晒しているだけで、全員に見られている気がして、顔が熱くなる。
……いや、太陽のせいじゃなくて。

ユリはさっさと飛び込み、トランペットの肺活量を証明するかのように力強く泳ぎ出した。
私は腰まで水に浸かり、冷たさに声を上げる。
「つめたっ……!」

そのとき、背後から水音が近づいた。
「お、来てたんだ」

振り返ると、カイが無造作にジャージを脱ぎ、水に入ってきたところだった。
濡れた髪が陽射しを反射して、目を細める姿がやけに眩しい。

「……っ!」
慌てて胸まで沈み、息が詰まる。

「何隠してんだよ。……その水着、似合ってる」
軽い調子なのに、言葉はまっすぐで、心臓を直撃した。
「に、似合ってないから!」
顔まで水に沈めて誤魔化したけれど、耳の奥まで熱かった。

私は意地を張ってバタ足をしてみせた。
けれど勢い余って足をつりかけ、身体が傾いた。
「わっ……!」

次の瞬間、カイの手がしっかりと腕をつかんだ。
がっしりした感触に引き寄せられ、肩と肩が触れ合う距離になる。
太陽の光と水滴が混ざり合い、彼の目がやけに近い。

「大丈夫か」
真剣な声が、耳の奥に直接落ちてきた。
「……ありがと」
声が震えて、自分でも情けなくなる。

カイは少し目を細めて、低く呟いた。
「子どものころより、今の方がずっと笑うんだな」

また、その言葉。
でも意味を聞く前に――。

「おーい! なに二人で見つめ合ってんの!」
ユリが派手に水を蹴り上げ、冷たいしぶきが顔にかかる。
「ちょっ……やめてユリ!」
必死に水をかけ返すと、三人の間に笑い声が弾けた。

――これが、夏なんだ。
水音と笑い声の中、心の奥が弾んで止まらない。

騒ぎ疲れてプールを上がるころには、髪も肌も太陽に焼かれて熱く、タオルで拭いても頬の赤みは消えなかった。

胸に残るのは、彼の言葉と、触れた手の温かさ。