瑛斗は洗面所へ行くと、冷たい水で濡らしたタオルを持ってきて、私の額を拭いてくれる。


その冷たさが、ぼんやりしていた意識を少しずつクリアにしてくれた。


「んん……」


私がうめき声をあげると、瑛斗は優しい手つきで私の髪を梳いた。


「まったく……君は、すぐ飲みすぎる」


その声は、会社で聞く凛とした響きとは全く違う、甘く優しい声だった。


そして彼は、私の額にそっとキスを落とす。


「莉子が、他の男に触れられるのは嫌だ。見ていられない」


耳元で囁かれた彼の声に、私の心臓が大きく高鳴った。


会社では私を「千堂」と呼び、冷徹な視線を送る。


でも、二人きりになった途端、私の額にキスを落とし、愛をささやく瑛斗。


そのギャップに、私は改めて、この秘密の恋に胸の高鳴りを覚える。


けど、同時に胸の奥で、この秘密はいつまで続くのだろうという、小さな不安も芽生えていた。