《訂正箇所は三か所だ。頑張れ、莉子。君ならできる》


たったそれだけの、業務連絡のような短い文章。でも、その言葉が、私の胸を温かい光で満たしていく。


彼は私を気遣って、他の社員に聞かれないようにメッセージをくれたのだ。


家に帰ってからの、瑛斗の優しい声と笑顔を想像する。それだけで、心が軽くなるのを感じた。


* * *


その夜。新しい課長の歓迎会の席は、温かいオレンジ色の照明で照らされていた。


普段は寡黙な同僚も、ビールの力で楽しそうに笑っている。その中心に、鬼課長の瑛斗がいた。


彼は同期の軽口に、口元だけを少し緩めて見せている。私には絶対に見せない、誰にでも見せるような曖昧な笑顔。それが、私の心に小さな棘を刺した。


瑛斗の周りには、彼と話そうと集まる女性社員が何人もいる。


彼の近くにいる女性社員たちは、楽しそうに笑いながら、熱っぽい視線を彼に送っている。


瑛斗は仕事の話には真剣に応じながらも、その鋭い視線が時折、私のほうに向けられているような気がした。


一度、瑛斗と視線がぶつかった瞬間、彼の瞳がわずかに揺れたように見えたが、次の瞬間には、また元のクールな表情に戻っていた。


「課長って、ああいう顔もするんですね」

「ええ。意外と話しやすい方みたいですよ」


女性社員たちの楽しそうな笑い声が聞こえる。


瑛斗が私に向けてくれる優しい笑顔とは全く違う、ビジネスライクなその笑みに、私は寂しさを覚えた。


私は、瑛斗が私を特別扱いしないという覚悟を、改めて思い知らされた気がした。