あれは、私が高校二年生だった六年前の春。
教育実習生として、瑛斗が私の高校に赴任してきた。
彼の担当教科は数学で、真面目でクールな佇まいだった。
そんな彼が、昼休みにいつも図書室に来ていたのを、図書委員だった私は知っていた。
夕暮れの光が差し込む図書室は、放課後になると誰もいなくなり、静寂に包まれる。
埃が舞う空気の中、時折、彼が本をめくる音だけが響いていた。
瑛斗は、教育実習生の中でも群を抜いて女子生徒から人気があった。
「望月先生、今日もかっこいい」
「優しいし、話しやすいよね」
瑛斗が廊下を歩くだけで、女子生徒たちが彼を見ながらひそひそと話しているのが聞こえてきた。
私はそんな彼を、遠くから見つめることしかできなかった。



