夕方。私は、新規ブランドの企画書を瑛斗のデスクに提出した。
「あの、望月課長。こちら、ご提案いただいた企画書です」
「ああ」
返事もそこそこに、彼は資料に目を通し始める。
その視線は鋭く、ページの隅々まで完璧な作業を求めているのが伝わってくる。
私は生唾を飲み込みながら、彼の言葉を待った。
瑛斗は資料を机に置くと、淡々とした口調で言った。
「千堂、このグラフのフォントは読みづらい。やり直してください」
彼の声は、社内の誰もが耳にするくらい、はっきりと響いていた。周囲の同僚たちの視線が、私に突き刺さる。
「……っ」
胸が締め付けられるように苦しい。彼の言葉は正しいと分かっている。
でも、他の社員が聞いている前で、こんなに突き放した言い方をされるのは初めてで、息が詰まりそうだった。
もしかして、会社では私を認めてくれていないのでは……? そんな不安が、頭をよぎる。
けれど、やはりちゃんとやり直して、彼に認めてもらいたいと拳を握った。
給湯室へ向かうと、真由ともう一人の同期がひそひそ話しているのが聞こえてきた。
「ねえ。あの鬼課長、怖すぎない? 莉子ちゃん、よく耐えてるよね」
「ほんと。でもさ、莉子ちゃんって、なんか特別なのかな? 他の人より厳しくされてる気がする」
二人の会話に足がすくんで、私はそれ以上近づくことができなかった。
まさか、そんなわけないよね……?
──ブーッ!
そのとき、スマートフォンが震える。
それは、瑛斗からのメッセージだった。



