鬼課長は、ひみつの婚約者



瑛斗は私と固く繋いだ手を、皆に見えるように高く掲げた。


「私は、千堂莉子を愛しています。彼女は、私の大切な婚約者です」


瑛斗が言い切ると、会場はしんと静寂に包まれた。


誰もが、信じられない……といった表情で、私たちを見ている。


「そんな、うそでしょ……!」


真由は、顔を真っ赤にしていた。彼女の手が、テーブルの下で震えているのが見える。


「どうして、こうなるのよ……」


スマホを握りしめていた真由の手が、力なく滑り落ちていく。


まるで、切り札をすべて失ったかのような、絶望に満ちた顔をしていた。


勝ち誇ったはずの真由の表情から一瞬で光が消え、深い屈辱と後悔がにじみ出る。


その様子を見て、私は言葉を失う。


まさか瑛斗が、こうしてみんなの前で宣言してくれるなんて……。


目頭が熱くなり、涙が頬を伝って流れ落ちる。


自分を守ってくれた瑛斗の姿に、私の心は震えた。


今、私の手を握りしめている瑛斗の掌は、驚くほど温かかった。


打ち上げ後、私は酔って朦朧とする意識の中、瑛斗に肩を支えられていた。


彼は周囲の同僚たちに、深々と頭を下げていた。


「この度は、千堂と宮内がご迷惑をおかけしました。先ほどは、お騒がせしてしまい申し訳ありません」


いつもの冷静な表情に戻った瑛斗に、私は少しだけ戸惑った。


ああ、やっぱり職場ではいつもの『望月課長』だ……。