「新しく課長を務めることになった望月です。無駄な残業は容認しない。結果を出すための効率を追求してください。以上」
その声は、家で私にだけ聞かせる甘い響きとはまるで違う。その冷たさに、胸の奥が凍りつくのを感じた。
昨夜、二人の住むマンションで彼が言った言葉が脳裏にこだまする。
『明日から、君と同じオフィスで働くことになるけど、職場では公私混同はしない。周囲に無用な詮索をされたくないし、何より莉子のキャリアを邪魔したくないから』
瑛斗の冷たい態度は、私への愛ゆえだと分かっている。それでも、私に向けられた他人行儀な視線に、胸の奥が軋んだ。
その瞬間、会社では私といるのが恥ずかしいのではないかという、新たな不安が心をよぎった。
初日から、瑛斗は完璧な仕事ぶりと冷徹な態度で、あっという間に部署内の空気を張り詰めさせた。
朝礼では前置きや冗談は一切なく、本題から入る。
必要のない会議は即座に切り上げ、資料は配布後三分で目を通すよう指示を出した。
冗談や私語を一切許さない彼は、雑談する同僚を「仕事に集中してください」と一言で制し、周囲が息をひそめるほどだった。
彼が部署を歩くだけで、周囲の温度が二度ほど下がったように感じられた。
そうして瞬く間に「鬼課長」の異名が広まっていった。



