「はぁ……疲れた」
深夜。重い足取りでマンションに帰ると、部屋からは温かい料理の匂いが漂ってくる。
「いいにおい……」
キッチンに立つ瑛斗の後ろ姿を見て、私は安堵の息を漏らす。
「おかえり、莉子。ご飯できてるよ」
瑛斗は、温かいスープと、私の好きなハンバーグを用意してくれていた。
私は手洗いうがいを済ませると、何も言わずに食卓に座り、黙々とハンバーグを口に運ぶ。
そんな私に、瑛斗は静かに問いかける。
「仕事、疲れただろ?」
「……っ」
その言葉に、堰を切ったように涙が溢れ出す。
「よく頑張ったな、莉子」
そう言って、瑛斗は私を優しく抱きしめてくれた。
「……っうう」
『頑張ったな』
その一言が、私の心に刺さっていた氷を溶かしていく。溢れてくる涙が止まらない。
私は瑛斗の胸に顔を埋め、子どものように声を上げて泣きわめく。
彼のシャツが、私の涙でじっとりと濡れていくのも気にせず、ただひたすらに泣いた。
しばらくして、ようやく泣き止んだ私は、意を決して彼に問いかけた。
「ねぇ、瑛斗。どうして会社ではあんなに冷たいの?」
私は、ここ数日、瑛斗に突き放され続けた寂しさと、それでも彼が私を愛してくれているという事実との間で揺れていた。
「……」
私の言葉に、瑛斗は何も答えない。ただ、私の頭を優しく撫でてくれた。
「莉子、君を会社で特別扱いできない本当の理由を、話しておくべきだったな」
瑛斗は、私を抱きしめたまま、静かに話し始めた。



