鬼課長は、ひみつの婚約者



誰もいない薄暗い道を、ひたすらに歩く。


街灯の光が、私の影を不気味に長く伸ばしていた。


頭の中は、先ほど見つけたミスでいっぱいだ。


明日、どうやってこのことを瑛斗に話そうか。


どれだけ厳しい言葉を投げかけられるだろうか。想像するだけで、胃のあたりがキリキリする。


重い足取りでマンションの扉を開けると、温かい部屋の灯りが私を包み込んだ。


「莉子、おかえり」


ソファに座って本を読んでいた瑛斗が、顔を上げて微笑む。


いつもの穏やかな笑顔が、私を安心させてくれるはずなのに。今日の私には、それがひどく眩しかった。


「……ただいま」


そう呟くのが精一杯で、私はそのままリビングを通り過ぎようとする。


「どうした?」


私の異変に気づいた瑛斗が、すぐに立ち上がって近づいてくる。


「っ、何でもないの。ちょっと疲れただけ」


瑛斗の心配そうな瞳から逃げるように、私は慌てて視線を逸らした。けれど、彼の大きな手が、そっと私の頬に触れる。


「顔色が悪い。何かあったのか?」