鬼課長は、ひみつの婚約者



新規ブランドのプロモーション企画は、最終段階を迎えている。この企画は、私たちの部署の今後を左右する重要なものだ。


責任重大なこの仕事に、私は身も心もすり減らす日々を送っていたけれど、憧れのプロジェクトに携われる喜びが、私を奮い立たせてくれていた。


この日も、深夜までオフィスに残り、企画書の最終チェックをしていた。


このプロジェクトを成功させて、瑛斗に認めてもらうんだ。その一心で、私は必死に資料と向き合っていた。


コーヒーを一口飲んで、もう一度、ページをめくる。すると、ある箇所で私の指が、まるで雷に打たれたかのように止まった。


「……うそ……」


それは、プロモーション企画書の核となる、ターゲット層のデータだった。


最新の市場調査結果を反映させたはずのデータに、明らかに古い情報が混入している。


年齢層、趣味嗜好、ライフスタイル……すべてが、数年前のものだ。


息が止まり、心臓が嫌な音を立てて早鐘を打つ。


頭の中が真っ白になり、何も考えられなくなった。


「……っ、どうしよう……」


手が震え、資料を握りしめることもできない。


最終確認は明日。このままでは、プロモーション戦略全体が根本から破綻してしまい、大勢の人の努力が無駄になる。


どうして、こんな重大なミスに気がつかなかったのだろう……ああ、私のバカ!


私は、震える手で資料をカバンに押し込むと、足早に会社を後にした。