「おはよう、莉子ちゃん」
そんなことを考えていると、同期の宮内真由が、華やかな笑顔で声をかけてきた。
彼女は流行に敏感で、派手なメイクがよく似合う。
仕事に情熱を燃やす負けず嫌いな性格で、そのストイックな姿勢に、私はいつも良い刺激をもらっていた。
「おはよう、真由。ねえ、新しい課長ってどんな人かな?」
「さあ? でも、うちの部署の平均年齢、一気に上がりそうだよね。イケメンだといいな、なんちゃって」
「はは」
真由の軽口に曖昧な笑みを返しながらも、私は内心で期待が膨らむ。
やがて、ザワザワと騒がしかったオフィスがしん、と静まり返る。張り詰めた空気が、肌を刺すように冷たい。
部長に続いて現れたのは、すらりとした長身の男性。凛とした切れ長の目、通った鼻筋。短い黒髪が知的な雰囲気を際立たせている。
「えっ、うそ……えい……」
思わず口から零れそうになった名前を、私は慌てて飲み込む。だって、その人は私がこの世で一番愛しいと思っている人だったから。
望月瑛斗、二十八歳。六年間付き合い婚約した、私の大切な人。
同じ会社の本社に勤めていた彼が、まさか私の部署に来るなんて。心臓が警鐘のように鳴り響く。
瑛斗は私をほんの一瞬だけ見つめ、すぐに目を逸らす。
まるでそこに、私の存在などないみたいに、目を逸らされてしまった。そのクールな視線に、心がチクリと痛んだ。
会社での彼は、私を、私だけを見ていない。
部長が紹介を終えると、彼は凛とした声で話し始める。



