鬼課長は、ひみつの婚約者



五月も終わりに近づき、蒸し暑い日が続いていた。重く湿った空気が、デスクの上の資料の山のように、私の肩にずしりとのしかかる。


窓の外では、とっぷりと日が暮れ、ビルの灯りがきらきらと瞬いていた。


翌朝。私は瑛斗に提出する資料を持って、彼のデスクに向かった。すると、真由が先に瑛斗と話していた。


「望月課長。こちらの資料、確認していただけますか?」

「ああ、そこに置いておいてくれ」


瑛斗は書類に目を向けたまま、そっけない声で答える。


真由は少し寂しそうな表情を浮かべたあと、私とすれ違いざまに、冷たい視線を送ってきた。


真由が席に戻ったのを見計らい、私は彼のデスクに資料を置く。


「あの、望月課長。こちらの資料のご確認もお願いします」

「千堂……お疲れ」


瑛斗は私の顔を見ると、ほんの一瞬だけ、他の人には見せない優しい表情を見せてくれた。


すぐに元のクールな表情に戻ったけれど、その一瞬で、私の心は満たされた。


私はその場を離れながら、真由がちらりとこちらを見ていたような気がして、胸がざわついた。