【瑛斗side】
昼休憩を終え、オフィスに戻ると、莉子が佐伯と打ち合わせをしているのが見えた。
二人の楽しそうな笑い声が耳に届き、思わず目を向ける。
楽しそうに笑いながら、佐伯の言葉に頷く莉子。
資料について真剣に話し合っているだけだと頭では分かっているのに、心がざわつく。
莉子が佐伯に向ける笑顔が、会社で俺が見るどの顔よりも眩しく見えた。
俺の婚約者が、他の男にそんな顔を向けるのは許せない。早くこの場所から、連れ去りたい衝動に駆られる。
俺は通り過ぎるふりをして、二人の様子をじっと見つめていた。それに気づいた宮内真由が、ここぞとばかりに俺に近づいてくる。
「はぁ……」
宮内が近づいてくる気配に、俺は内心でうんざりした。
あいつは俺の意識が莉子にあると分かっていて、わざと話しかけてくる。
目の前の女に構っている暇はない。俺の心は、ただ一人だけだ。
「課長、お疲れ様です。さっきまで千堂さんと話してたんですけど、ほんと仕事熱心な子ですよね」
莉子の名前を出され、余計に苛立ちが募る。
俺は「ああ」とだけ返事をし、彼女を冷たく一瞥する。そして、宮内の横を通り過ぎ、立ち去った。
「何よ……っ」
そんな俺の態度に、宮内が焦りと嫉妬を募らせていたなんて。このときの俺は、全く知る由もなかった。



