「え、はい。佐伯さん、とても話しやすい方なので……」
私の言葉を遮るように、瑛斗はスッと右手を伸ばし、私の手首を掴んだ。
手首が、じんわりと熱を帯びていくのが分かる。
瑛斗はそのまま、ぐいっと私を自分のほうへと引き寄せると、背中を冷たい壁に押しつけられた。
「……っ」
驚いて顔を上げると、瑛斗の瞳が私を射抜いていた。
会社で見せるクールな目つきとは全く違う、熱を帯びた独占欲に満ちた瞳。
彼の視線に、ゾクッとした感覚が背筋を駆け上がる。
「他の男と話すときは、俺の婚約者だということを忘れないで。君のその無防備な笑顔、他の男に見せないでほしい」
耳元に、瑛斗の熱い吐息がかかる。
普段の彼からは想像できない、甘く低い声が直接、鼓膜に響いた。
「……っ。さ、佐伯さんとは、仕事の話しかしてないですよ」
「分かってる。分かっているが、見ていられないんだ」
そう言うと、瑛斗は私の手首を離し、何事もなかったかのように元の位置に戻った。
チン……という電子音と共に、エレベーターのドアが開く。
「それでは、お疲れ様でした」
瑛斗はいつものクールな表情に戻り、あっさりとエレベーターを降りていった。
彼の冷静な態度に、私は心の中の嵐が嘘だったかのように静まるのを感じた。
でも、瑛斗の言葉と体温は、私の中に確かに残っていた。



