その日、佐伯さんとの打ち合わせは和やかに終わり、私は自分の席に戻った。


ある日の夕方。オフィスに残っていたのは、私と瑛斗だけだった。


私は、企画書のチェックを終え、ほっと一息つく。


仕事も終わったし、早く帰ろう。そう思い、私はカバンを手にエレベーターへと向かった。


エレベーターのボタンを押し、しばらく待っていると。


「千堂さん。今、帰りですか?」


突如、背後から声がした。振り返ると、そこには瑛斗が立っていた。


私の胸が、とくんと小さく跳ねる。


「はっ、はい。作業が一段落したので」


次の瞬間、エレベーターの扉が開く。


彼は何も言わず、エレベーターに乗り込んだ。私も、一歩遅れてエレベーターに乗り込む。


扉が閉まり、密室になった空間に、私たち二人の息遣いだけが響く。


たった数秒のエレベーターの移動時間が、永遠に感じられた。


彼の隣にいる高揚感と、会社の人に見られたらどうしようという不安が、交互に波のように押し寄せてくる。


早く一階に着かないかな……。


そんな私の焦りとは裏腹に、瑛斗はいつものようにスマホに目を落とし、私を気に留める様子はない。


私は、ただただ、このエレベーターが一階に着くことだけを願っていた。


「君……最近、佐伯さんとずいぶん楽しそうに話しているね」


不意に、瑛斗が私に話しかけてきた。彼の声は、いつもよりも低く、少しだけ冷たい響きがある。