【某大手週刊誌・編集部】
深夜だというのに
編集部のフロアは
タバコの煙と男たちの熱気でむせ返っていた
鳴り響く電話
飛び交う怒号
締め切り前の戦場
それが、彼の次の目的地だった
石松はその中心に
ズカズカと、何の躊躇もなく入っていく
石松:「編集長はいるか!」
その、刑事特有の、腹の底から響く声に
フロアの全ての動きが、一瞬だけ止まった
奥の個室から
疲れ切った顔の初老の男が、顔を出す
この雑誌の編集長だった
編集長:「……俺が、編集長だが」
石松:「あんたに、とっておきのネタを持ってきた」
編集長は、石松の、ただならぬ目つきを見て
全てを察した
彼は、顎で、自分の個室をしゃくった
編集長:「……入れ」
【編集長室】
部屋に入るなり
石松は、一枚の写真を叩きつけるように
編集長のデスクに置いた
桐生院琉星の写真だ
石松:「コイツが、女を殺した」
石松:「俺たちは、その物証も掴んだ」
石松:「だが、上の圧力で、捜査は打ち切りだ」
編集長は
黙って、石松の話を聞いていた
そして、全てを聞き終えると
深いため息をついた
編集長:「……石松さん」
編集長:「悪いが、そのネタは、ウチでは扱えん」
石松:「……は?」
編集長は
心底、言いにくそうに
そして、どこか悔しそうに、言葉を続けた
編集長:「今日の、昼過ぎだ」
編集長:「ウチのトップに、直接、電話があったらしい」
編集長:「桐生院彩音、本人からな」
編集長の目が
石松から、ふいと逸らされた
編集長:「『息子のことで、つまらない記事を書くなら、覚悟しておけ』と」
編集長:「……ウチだけじゃない。全てのメディアに、すでに圧力がかかっている」
石松は
一瞬、何を言われたのか
理解できなかった
そして
理解した瞬間
彼の内側で、何かが、音を立てて、キレた
石松:「クソったれがぁっ!」
彼の咆哮が
編集長室に轟いた
彼は、デスクを、拳で力任せに叩きつける
その瞳には
やり場のない、怒りの炎が燃え盛っていた
正義も
真実も
この国では、いとも簡単に
金と権力に、握り潰される
その、腐りきった現実を
彼は、またしても、見せつけられたのだ



