第九章:エピローグ
数ヶ月後
東京地方裁判所・法廷
傍聴席は
この世紀の裁判を一目見ようと集まった人々で
満員だった
その、一番後ろの席に
明日香は、静かに座っていた
やがて
法廷の扉が開き
被告人が、入廷する
桐生院彩音
その姿に、かつての女帝の面影はなかった
高価なドレスは、地味なスーツに変わり
完璧にセットされていた髪は、ただ、一つに束ねられているだけ
その瞳からは、全ての光が消え去っていた
裁判長が、静かに、判決を言い渡す
裁判長:「主文」
裁判長:「被告人、桐生院彩音を、懲役三年に処する」
法廷内が、ざわめく
実刑判決
だが、明日香は、ただ黙って
その光景を見ていた
裁判長は、続ける
その声は、厳しく、そして、どこか哀れみに満ちていた
裁判長:「被告人が、長年にわたり、我が国の文化の発展に貢献してきたことは、裁判所としても、十分に認めるものである」
裁判長:「しかし、その社会的地位と財力を、自らの息子の罪を揉み消すために、幾度となく濫用した」
裁判長:「その罪は、あまりにも重い」
彩音は
その言葉を
ただ、無表情で聞いていた
彼女の視線は
裁判長ではなく
もっと、遠い、どこかを見つめているようだった
今も、塀の中にいるであろう
愛する、息子のことだけを
考えているのかもしれない
明日香は
静かに、席を立った
そして
誰にも気づかれることなく
その、重苦しい法廷を
後にした
外に出る
その目に、安堵の色はなかった
女帝は、堕ちた
だが、まだだ
本当の元凶
妹の命を、直接奪ったあの男
桐生院琉星の裁判が、まだ残っている
明日香は
もう、振り返らなかった
自らの、本当の戦いを終わらせるために
光の差す、未来へと
ただ、まっすぐに
歩き出した。



