【滝沢のアジト】
アジトには
璃夏がキーボードを叩く
乾いた音だけが響いていた
彼女は
警視庁のデータベースの壁と
静かな格闘を続けている
ソファでは
滝沢が、明日香(響)に声をかけた
滝沢:「響」
滝沢:「お前と、お前の妹がやったという」
滝沢:「TikTokライブ、というのを見せてくれ」
明日香は
無言で、妹、未香のスマートフォンを手に取り
TikTokのアーカイブ一覧画面にして
滝沢に渡した
滝沢はまず
明日香の、あの衝撃的な告発ライブを見た
そして
そのまま、スクロールし
未香が、生前に配信していた
屈託のない笑顔のアーカイブを
一つ、また一つと、見ていった
滝沢:「……さすがに、姉妹だな」
滝沢:「よく、似ている」
その、静かな呟きに
明日香の肩が、わずかに震えた
滝沢は
何本目かの動画を再生した
その時だった
彼の指が、ぴたりと止まる
画面の端に流れる
ライブ中のコメント欄
その、一つの名前に
彼の目が、釘付けになった
『meteor』
その視聴者は、他の誰よりも、圧倒的な金額の投げ銭を繰り返していた
画面に**【meteorさんが、ライオンを贈りました! ¥30,000】**という通知が、何度も派手に表示されている
そして
投げ銭と共に、執拗にコメントを送っていた
『未香ちゃんの夢、俺が絶対に叶えてあげるからね』
『他のファンの声なんて、気にしなくていいよ。俺だけが、君の本当の価値を分かってる』
『今日の服も可愛いね。でも、俺がプレゼントした服の方が、もっと似合うと思うな』
それは
一見すれば、熱狂的なファンからの
惜しみない応援コメント
だが、その言葉の端々には
相手を自分だけの所有物にしようとする
粘着質で、歪んだ支配欲が
確かに、滲み出ていた
滝沢は、明日香を呼んだ
滝沢:「響、これを見ろ」
明日香は、画面を覗き込む
滝沢:「meteor」
滝沢:「直訳すれば、流星だ」
明日香は、ハッと息を呑んだ
桐生院琉星
明日香:(まさか、知り合ったのは、TikTok……?)
明日香:(私の身内を探して、未香に行き着いた……?)
明日香:(それとも、本当に、偶然……?)
その時だった
璃夏が、大きな声を上げた
璃夏:「居ました!」
滝沢:「……プリントアウトしてくれ」
璃夏は、一枚の紙を印刷する
そこには、流星が居る留置所がある麻布署警察署の警察官、顔写真と経歴
滝沢と、ほぼ同じ背格好の男だった
滝沢は、その紙を手に取ると
静かに、立ち上がった
滝沢:「少し、出てくる」
彼は、そう言うと
一人、アジトを後にして行った
これから始まる
危険な「仕事」の、準備のために



