【滝沢のアジト】
滝沢:「……一つ、提案がある」
明日香と璃夏が
同時に、滝沢の顔を見る
彼の口元には
獲物を見つけた、獰猛な獣のような
笑みが、浮かんでいた
明日香:「……提案、ですって?」
滝沢:「ああ。桐生院琉星を、脱獄させる」
その、あまりに突拍子もない言葉に
璃夏と明日香は、絶句した
滝沢は、構わず続ける
滝沢:「俺が、留置所のある警察署の警察官になりすまし、琉星を檻から出す」
滝沢:「その間、璃夏が、留置所のカメラをハッキングする」
滝沢:「ほんの数分の間に、琉星を連れて外に出て、車で逃走する」
滝沢:「そして、響」
滝沢:「お前が、彩音に電話をかけろ」
滝沢:「琉星の声を、少しだけ聞かせてやるんだ」
滝沢:「『息子を返してほしければ、一人で来い』とな」
滝沢:「命より大事な息子のためだ」
滝沢:「あの女は、絶対に、一人で来る」
滝沢:「そこで、警察に自首でもさせればいい」
滝沢:「彩音は、脱獄幇助(ほうじょ)の罪も被ることになる」
滝沢:「……どうだ?」
明日香は、悩んだ
それは、あまりにも危険な賭け
そして、法を完全に無視した、闇の戦い方
明日香:「……もし、滝沢さんが脱獄させたって、彩音が警察に言った場合は、どうするんですの?」
その、もっともな問いに
滝沢は、ニヤリと、深く笑った
滝沢:「警察に、言うのか?」
滝沢:「『私が雇った殺し屋が、勝手に息子を脱獄させた』と?」
滝沢:「……誰が、そんな事を信じる?」
璃夏:「……確かに」
璃夏:「下手したら、統合失調症だと思われますね」
明日香は、静かに頷いた
そして、覚悟を決めた目で、滝沢を見た
明日香:「……お願い、しても、よろしいでしょうか?」
明日香:「私も、一度、桐生院彩音と、話してみたかったから」
滝沢は、今度は璃夏に向き直った
滝沢:「璃夏」
滝沢:「琉星がいる留置所の警察官の中から」
滝沢:「俺と、体格が近い人間を探せるか?」
璃夏:「……何とか、やってみます」
こうして
悪魔の作戦の、歯車が
静かに、そして、確実に
回り始めた



