不幸を呼ぶ男 Case.2


【深夜・ラーメン屋】

豚骨とニンニクの匂いが充満する
ラーメン屋の座敷は
今や、非公式の捜査本部と化していた
刑事たちは
それぞれのスマートフォンで
明日香のTikTokライブのアーカイブを
片っ端から見返していた
石松:「何か気づいたことはないか!」
若い刑事が、ハッと顔を上げる
刑事:「石松さん!背景が……」
刑事:「斉藤未香の、過去の配信の部屋と」
刑事:「姉の明日香さんが、さっきまでライブをしていた部屋の背景が」
刑事:「……同じです!」
石松の目が、鋭く光った
石松:「……間違いない」
石松:「斉藤明日香は今、妹の自宅マンションにいる」
石松は、テーブルに叩きつけるように
数枚の千円札を置いた
石松:「親父、勘定だ!」
彼は、部下たちに向かって叫んだ
石松:「あのお嬢ちゃんは、無茶をしすぎた」
石松:「桐生院の連中が、黙って見てるはずがねぇ」
石松:「明日香の安全を確保する!急ぐぞ!」

【斉藤未香のマンション】

刑事たちが、なだれ込むようにマンションに到着する
だが
部屋のドアには、鍵がかかっていなかった
石松は、最悪の事態を予感しながら
ドアを、蹴破るように開けた
部屋の中は
もぬけの殻だった
テーブルの上には
ライブ配信で使われたのであろう
スマートフォンのスタンドだけが
ぽつんと、残されている
そこに、明日香の姿はなかった
石松:「……くそっ!」
彼は、すぐに部下に指示を出す
石松:「特捜を編成する!全力で斉藤明日香の行方を追え!」
石松:「残りは、このマンションの防犯カメラの映像を解析しろ!」
石松:「奴らが、どんな手段で彼女を連れ去ったか、必ず痕跡が残っているはずだ!」

数十分後

解析班の若い刑事が
血相を変えて、石松の元へ駆け寄ってきた
刑事:「石松さん……!映像に、不自然な点が…!」
刑事:「午後9時5分から、9時10分までの、ちょうど5分間だけ」
刑事:「この部屋がある廊下の映像が、ループしています!」
刑事:「何者かが、外部からハッキングしたとしか…!」
5分
プロの仕事だ
石松は、奥歯を、ギリリと噛み締めた
​その、あまりに完璧な手口に
彼は、一人の男の存在を
直感していた
​自分が、決して出会ってはならない
裏社会の、最強の亡霊(ファントム)の気配を…