【警視庁・捜査一課】
深夜の捜査一課は
まだ戦場のようだった
だが
その中心にいるはずの男
石松から
もう、熱は消えていた
彼は自席で
抜け殻のように、椅子に座り
ただ、天井のシミを眺めている
部下たちが、心配そうに
しかし、声をかけることもできずに
遠巻きに、彼を見ていた
その時だった
一人の若い部下が
おそるおそる、彼の元へ近づいてきた
部下:「……石松さん」
石松は、反応しない
部下:「石松さん!これ、見てください!」
部下は、自分のスマートフォンを
石松の目の前に、突き出した
画面には
あの、明日香のTikTokライブの
アーカイブ映像が映っている
石松は
気だるそうに、その画面を一瞥した
だが
画面の中の女が、語り始めた瞬間
彼の、死んだ魚のようだった目が
みるみるうちに、見開かれていく
明日香の声が
スマホのスピーカーから、響き渡る
妹の死
桐生院琉星の名前
MDMA
そして、5年前の、自分への被害
石松の目が
みるみるうちに、赤く充血していく
彼の、心の奥底で
消えかけていた、正義の炎が
再び、激しく、燃え盛るのを
彼自身が感じていた
そして
明日香が、深々と頭を下げた
その瞬間
石松:「でかしたぁぁぁっ!」
石松の咆哮が
捜査一課のフロア全体に、轟いた
彼は、椅子を蹴立てるように立ち上がると
その足で、課長の部屋へと、突撃した
バンッ!
ドアを蹴破るように開け
彼は、課長のデスクに
スマホを叩きつけた
課長は、驚いて顔を上げる
石松:「立件するぞ!」
課長:「ま、待て!石松!」
石松:「やかましい!」
石松:「正義は、最後には勝つんだよ!」
石松:「クビにしたきゃ、やってみろ!」
石松は
怒りに、震えていた
いや
正義の、喜びに、震えていた
彼は、課長に背を向けると
フロアにいる、部下たちに向かって
その、しゃがれた声で、叫んだ
石松:「行くぞ!お前ら!」
その、魂からの叫びに
若い刑事たちの、心が動いた
彼らは、一斉に立ち上がる
石松は
蘇った獅子のように
勢いよく、警視庁から、飛び出していった
腐りきった組織と
巨大な権力に
最後の戦いを挑むために



