【SNS / インターネット】

明日香のTikTokライブが終わった瞬間
世界は、動き出した
まず
彼女の告発は、瞬く間に録画され
TikTok上で、拡散され続けた
『#斉藤未香』
『#桐生院琉星を許さない』
『#真実を闇に葬るな』
そんなハッシュタグと共に
次に火がついたのは、X(旧Twitter)だった
『まじかよ、桐生院の息子、薬やって人殺したのか?』
『5年前にも、このお姉さんに何かやってるってこと?』
『昔、未香ちゃんと同級生だったけど、すごく良い子だったよ。信じられない』
『桐生院彩音のファンやめます』
トレンドは
あっという間に、桐生院親子の名前で埋め尽くされた
匿名掲示板では
過去の琉星の非行や、目撃情報が
次々と、掘り起こされていく
ネットニュースの記者たちが、その「祭り」に飛びついた
『衝撃の告発ライブ!国民的歌手・桐生院彩音の息子に殺人疑惑!』
『警察・マスコミは沈黙。巨大権力による隠蔽工作か』
そして、とうとう
大手テレビ局のワイドショーも
この騒動を、無視できなくなった
彼らは、桐生院彩音の顔色をうかがいながら
及び腰で、この「現象」を報じ始めた
こうして
たった一人の女性が放った告発は
誰にも止められない、巨大な世論の津波となった
それは
完璧なはずだった、女帝の足元を
静かに、しかし、確実に浸食し始めていた


【桐生院家・邸宅】

都心の一等地に佇む
美術館のような、静謐な邸宅
桐生院彩音は
優雅に、ハーブティーを飲んでいた
そこへ
一人の男が、血相を変えて駆け込んできた
長年、彼女の秘書を務める、橘だった
彩音:「どうしたの、橘。そんなに慌てて」
橘:「奥様……!大変なことに…!」
橘は、震える手で
自分のスマートフォンを、彩音に差し出した
画面には、明日香の、あの告発ライブのアーカイブ映像が映っている
彩音は、訝しげに、その画面を覗き込む
そして
画面に映る女の顔を見た瞬間
彼女の、完璧な微笑みが、凍り付いた
彩音:(……この女……)
彩音:(5年前の、あのホステス……!)
映像が、進んでいく
妹の死
息子の名前
MDMA
そして、5年前の、自分への被害
彩音の、カップを持つ手が
わなわなと、震え始めた
カチャカチャと
カップとソーサーが、不気味な音を立てる
彼女は、全てを理解した
これは、ただのチンピラが起こしたような
金で解決できる、スキャンダルではない
全てを失い、死をも覚悟した女による
命がけの、復讐だ
彩音は、静かに、カップを置いた
彩音:「……早急に、この女を、殺さなければ」
その声は
氷のように冷たかった
彩音:「橘」
彩音:「方法は、お前に任せる」
彩音:「どんな手を使ってもいい。金は、いくらでも使いなさい」
彩音:「……ただ、静かに、確実に、消すのよ」
橘:「……かしこまり、ました」
橘は
深々と、頭を下げた
その額には
冷たい汗が、びっしりと浮かんでいた