大嫌い!って100回言ったら、死ぬほど好きに変わりそうな気持ちに気付いてよ…。

 休日の午後。



 朱里は嵩に呼ばれ、二人が初めて昼食を一緒に食べたイタリアンレストランを訪れていた。



 あの日と同じ窓際の席。



 メニューを見ながら、朱里が笑う。



 「またパスタなんですね」



 「思い出の場所だからな」



 「……あのとき、フォークがうまく使えなくて笑われたんですよね」



 「今でも覚えてる」



 「忘れてくださいって言ったのに」



 二人で顔を見合わせて笑う。



 あの頃は、こんな未来が来るなんて想像もできなかった。



 食事を終え、店を出る。



 冬の風が吹き、朱里の髪が揺れる。



 嵩は自然にその手を握った。



 「少し歩こうか」



 並んで歩く道は、昔よく一緒に帰った道によく似ていた。



 「朱里」



 呼ばれて振り向く。



 嵩は少し照れたように笑っていた。



 「俺さ、お前の『大嫌い』に何度も振り回された」



 「……ご、ごめん」



 「でも今なら分かる」



 「全部、『好き』だったんだよな」



 朱里は恥ずかしさで顔を赤くする。



 「思い出させないでください……」



 嵩はポケットから小さな箱を取り出した。



 ゆっくりと開く。



 陽の光を受けて、小さな指輪が輝いた。



 「これから先も、嬉しいときも、不安なときも、一緒に考えていきたい」



 一度息を吸って、まっすぐ朱里を見る。



 「中谷朱里さん」



 「俺と結婚してください」



 朱里の目から涙があふれた。



 何度もうなずいても、言葉が出ない。



 ようやく絞り出した一言は——



 「……はい」



 それだけだった。



 嵩は優しく指輪をはめる。



 左手の薬指にぴったり収まったその指輪を見て、朱里は笑いながら泣いた。



 「私ね」



 「百回『大嫌い』って言ったのに」



 嵩も笑う。



 「知ってる」



 「でも、一回の『はい』で全部追い越した」



 朱里は泣き笑いのまま、嵩の胸に顔をうずめた。



 ようやく、この恋は"好き"という言葉にたどり着いた。