オレンジの光が「L・G探偵事務所」に差し込んでいる。今日は事務所が一日休みの日である。そのため、普段は社員であるアントーニョ・セルバンテスとオルハン・フリストウの喧嘩がよく行われている事務所内は静まり返っていた。

事務所には誰もいないはずだった。しかし、一人のエプロンドレスを着た女性がいる。事務員のリズ・ポッターだ。彼女は社長であるレオンハルト・ジッキンゲンのデスクの近くにある本棚を見ていた。

「レオンハルトさん、全巻持ってるのね……」

本棚を見つめるリズの瞳は潤んでいた。その視線の先には、レオンハルトが探偵を目指すきっかけとなった探偵セドリックシリーズがある。

リズは未完成の小説シリーズに手を伸ばす。優しくその背表紙をなぞった。彼女の頰を透明な雫が伝う。リズの頭の中には、懐かしい過去の思い出があった。

森に囲まれた小さな一軒家、ピアノの音が絶え間なく響く。白い髪の女性がピアノを弾いていた。幼いリズはその音に合わせて踊り、自分の頭の中に浮かんだ言葉を歌っていく。