勘違い令嬢の離縁大作戦!~旦那様、愛する人(♂)とどうかお幸せに~

 私も一緒に中庭の草むしりをすると言ったけれど、結局させてはもらえなかった。

 どうするのかと思えば翌朝、シオン様とクラウド様が剣を振りながら芝をちょうどいい長さに整えていた。
 あれだけ酷い状態だったのに、二人はあっという間に綺麗な中庭に戻していく。

 切り取った芝はクラウド様が炎の魔法で焼き払った。
 その時に頬に付いた煤を、シオン様が袖で拭ってあげていたのを見逃したりはしていない。

「お二人とも、案外楽しそうに草を刈っていたな……」

 もっと煩わしそうにすると思っていたのに。
 私はただ草を伸ばしただけ。

 次は後々ご迷惑をかけないようなことにしよう。

 どんなことをしようかと考えながら肥料作りをしていたら、薬草がピュッと口元に飛んできた。

「うえ、苦い」

 そうだ、次はこれにしよう。

 私は午後、厨房へと向かった。
 シオン様の休憩用のお茶を準備しようとしているマシューさんに声をかける。

「あの、シオン様のお茶、私が淹れてもいいですか?」
「ええ、それは大変喜ばれると思います」

 マシューさんすみません。あなたのご主人様はきっと苦い顔をされると思います。

 厨房を借りてお茶を用意し、ワゴンにポットとカップを乗せて執務室へと向かった。
 コンコンコン、とノックをし、返事を確認してから中へと入る。

 私の顔を見てひどく驚くシオン様。
 マシューさんだと思っていたのだろう。
 ガタっと椅子を鳴らし、急いで立ち上がった。
 ちょっと、驚き過ぎじゃない?

 それもそうか。私が執務室を訪ねるなんて初めてだ。

「ティア、どうかしたの?」
「お茶を、淹れようと思いまして。そろそろ休憩の時間ではありませんか?」
「ティアが淹れてくれるの? それは嬉しいな」

 驚いた表情から一変、貼り付けたような笑顔でありがとう、と私にお礼を言う。
 私はこの作られた笑顔が好きじゃない。
 昨日のような無邪気で素の表情をもっと見せてほしいのに。

 まあ、素を見せるのはクラウド様だけか。
 昨日はたまたま私が変なことをしたから可笑しくて笑っただけだよね。

 シオン様は仕事机からソファーへと移動し、隙のない笑みで待っている。

 なんだか寂しくなりながら、カップにお茶を注ぐ。
 ティア特製、疲労回復薬草苦茶。

 苦味のある薬草だけを使い、飲みやすくするためのまろやかな茶葉は一切入れていない。
 ただただ苦いだけのお茶だ。

 こんな美味しくないお茶しか入れられないなんてひどい妻でしょう?

 私は見るからに濁って美味しくなさそうなお茶をシオン様の前に差し出した。

「どうぞ……」
「ありがとう」

 カップを手に取り、口に運ぶ。ゴクリ、と飲んだシオン様は顔色ひとつ変えない。
 普通に、優雅にお茶を楽しんでいる。

 あれ? 思ったより苦くなかった?
 苦いのが嫌で味見はしなかったけど、ちょっとくらい確認しておけばよかったかな。

「あの……お味はどうでしょう?」
「ん? 美味しいよ。少し苦味があって、とても体に良さそうだね」

 苦いとは感じているんだ。
 でも、美味しいってことはそこまでじゃないってことか……。
 もっと苦味の強い薬草を入れればよかったかな。

 今回の作戦もなんの効果もなかったなと項垂れていると、シオン様が、ティアも座ったら? と声をかけてきた。

 これは、一緒にお茶をしようということなのかな?
 一応妻だし、立って見ているだけというのもおかしいか。

 私は自分の分お茶を入れて向かいに座る。
 見た目はまるで毒だな。
 でもシオン様は美味しいと言って飲んでいるし、思っていたより苦くはないのだろう。

 カップに口をつけ、一口飲んだ。

「っ……!」

 に、苦い。苦すぎる。こんなの、飲み物じゃない。
 無理だ。無理無理無理。

 ヤバい……。

「うぅ……うぇぇ%&$#$%&*+’&○¥」


 ◇ ◇ ◇


「ひっく、うぅ……ごめんなさい~うぅ」
「ティア、謝らないで。そんな時もあるよ」
「うぅ……ひっく、」
 
 どんなになだめても泣き止まないティア。
 そんなにつらかったなんて可哀想だ。

 でも、そんな泣き顔も可愛くて愛おしいなんて言ったら引かれるだろうか。

 ティアがお茶を淹れてくれるなんて初めてで、思わずニヤついてしまいそうになったけれど、なんとか表情を崩さずにいられた。
 お茶には薬草がたくさん使われていたようで、苦くはあったけれど、僕の体調を考えて淹れてくれたのだと思うと喜びで踊り出してしまいそうだった。

 そんな恥ずかしい姿は絶対にティアには見せられないけれど。

「こんな醜態を晒してしまい、ソファーまで汚してしまい、本当に申し訳ありません……」
「気にしなくていいんだよ。それよりも、体調は大丈夫?」
「はい……」

 ティアが自分のお茶を淹れて飲んだ時は正直心配だった。
 彼女は苦いのが苦手だから。

 僕が座ってなんて言ったから無理して飲んだのかな。
 申し訳ないことをした。
 
「ティア、もう僕に気を遣ってお茶を淹れなくていいからね」

 そう言うと、ティアはパッと顔を上げる。
 目を見開いた後、眉を下げ、小さく頷いた。

 どこか困惑した瞳をしているのは気のせいだろうか。
 彼女の考えていることはよくわからない。

 ただわかっているのは、他に慕っている相手がいながらも、父に言われ、僕と結婚したということ。
 彼女は勉強熱心だし、父の期待以上の働きをしてくれている。
 だからその分彼女には何不自由なく暮らしてもらいたいし、なんでも好きなことをして欲しいと思っている。
 
 後は、僕が彼女に好かれるような男になるだけ――。