結婚してから、もうすぐ三か月。
 相変わらず颯真は仕事が忙しいはずなのに、毎朝必ず一緒に朝食を取るようになった。
 ──いや、正確には、取らされている。

「おはよう。……まだ眠そうだな」

「だって、あなたが六時に起こすから」

「夫婦なんだから、一緒に朝を過ごすのは当然だろう」

 当然のように言いながら、颯真は私のカップにコーヒーを注ぎ、角砂糖をひとつ落とす。
 この人がこんなに世話焼きだったなんて、婚約時代には想像もしなかった。

「今日は午後から会議だ。送る」

「大丈夫よ、自分で──」

「駄目だ。送る」

 有無を言わせぬ口調は相変わらずだけれど、その表情は柔らかい。
 この変化が、少し照れくさい。



 出勤前、玄関で靴を履こうとした時、颯真が呼び止めた。

「待て」

「なに?」

「……ネクタイが曲がってる」

 そう言って、私の首元に手を伸ばし、結び直す。
 至近距離で見上げると、彼の瞳が優しく細められていた。

「……こうしてると、結婚した実感が湧くな」

「私は毎日実感してるわ。……束縛が増えたなって」

「ふふ……。これからもっと増える」

 頬に軽く口づけられ、思わず赤くなる。
 ──拗らせていたあの頃の私に、この未来を教えてあげたい。



 車に乗り込むと、颯真が当然のようにシートベルトを引き寄せてくれた。
 その仕草に、心が温かくなる。

「美玲、今日は早く帰ってこい」

「どうして?」

「理由がいるのか? ……お前と過ごす時間が欲しいからだ」

 窓の外に朝日が差し込む。
 新しい日常の中で、私は幸せを噛みしめた。