あの日の言葉が胸の奥に残ったまま、数日が過ぎた。
 仕事も手につかず、ふとした瞬間に悠真の横顔が脳裏をよぎる。
 ――本当に、私だけ?
 信じたい気持ちと、まだ残る不安がせめぎ合っていた。

 そんなある夜、マンションの前で黒い車が停まった。
 運転席から降りてきたのは、もちろん彼。
 「……少し、話せるか」
 低い声に頷くと、私たちは近くの公園へ足を運んだ。

 冬の夜気が、吐く息を白く染める。
 ベンチに腰を下ろした悠真は、しばらく黙ったまま私を見ていた。
 「玲奈のこと、誤解させて悪かった。あれは本当に業務の話だ」
 その声音は真剣で、嘘の影は見えない。

 「……でも、どうして私にだけ冷たかったの?」
 問いかけると、悠真は小さく息を吐き、夜空に視線を上げた。
 「冷たくしていれば、お前は俺から離れると思ってた。……俺の仕事は危険だ。守るためには距離を置くしかないと、そう思ってた」

 胸が締め付けられる。
 「でも、あなたは……」
 「離れてくれなかった。あの日も、昔も。だから、もう諦めた」
 そう言って、彼はゆっくりと手を伸ばし、私の頬に触れる。
 「幼い頃、雨の中で言っただろう。『俺が一生守る』って。……あれは冗談じゃない。俺の人生は、その約束で決まってる」

 温かい掌に包まれ、涙が零れそうになる。
 「……信じても、いいの?」
 「信じろ。何度でも証明する」

 そのまま、彼の腕が私を包み込む。
 幼い日の記憶と、今この瞬間が重なり、胸の奥で長く閉じ込めていた想いが溶けていくのを感じた。