週明けの夜、私は父の代理で顧客との会食に出席していた。
会場は都心の高層ビルのレストラン。ガラス越しに見下ろす夜景は美しいはずなのに、胸はなぜか落ち着かない。
食事も終わりに近づいた頃、店内の奥で小さな騒ぎが起きた。
視線を向けると、黒いコートの男がひとり、慌ただしく入口に入ってくる。
――その顔に、私は見覚えがあった。
数か月前、父の会社に不当な契約を迫り、追い返された取引先の人間だ。
「彩花さんですよね」
近づいてくる足音に、背筋が凍る。
「少し話を――」
言葉が最後まで届く前に、私の腕を強く引く力があった。
振り返ると、そこには息を切らした悠真が立っていた。
「彼女に近づくな」
低く、鋭い声が空気を震わせる。
男が口を開きかけるが、悠真の視線に射抜かれ、すぐに後退した。
近くにいた店員が慌てて警備を呼び、騒ぎは瞬く間に収束する。
「……どうして、ここに」
震える声で尋ねると、悠真は私を店の外まで連れ出し、車の助手席に押し込んだ。
「父上の会社のことは全部把握してる。危険が及びそうな時は……放っておけるわけがない」
彼の声は低いが、ほんのわずかに熱を帯びていた。
「でも、そんなの……」
「お前は黙って俺のそばにいろ。離れるな」
助手席のドアが閉まり、車が静かに走り出す。
窓の外を流れる夜景が滲み、胸の奥が熱くなる。
――冷たいだけだと思っていた。けれど、本当はずっと、こうして守ってくれていたのだろうか。
その答えを確かめたいのに、隣の横顔はやはり無口なままだった。
会場は都心の高層ビルのレストラン。ガラス越しに見下ろす夜景は美しいはずなのに、胸はなぜか落ち着かない。
食事も終わりに近づいた頃、店内の奥で小さな騒ぎが起きた。
視線を向けると、黒いコートの男がひとり、慌ただしく入口に入ってくる。
――その顔に、私は見覚えがあった。
数か月前、父の会社に不当な契約を迫り、追い返された取引先の人間だ。
「彩花さんですよね」
近づいてくる足音に、背筋が凍る。
「少し話を――」
言葉が最後まで届く前に、私の腕を強く引く力があった。
振り返ると、そこには息を切らした悠真が立っていた。
「彼女に近づくな」
低く、鋭い声が空気を震わせる。
男が口を開きかけるが、悠真の視線に射抜かれ、すぐに後退した。
近くにいた店員が慌てて警備を呼び、騒ぎは瞬く間に収束する。
「……どうして、ここに」
震える声で尋ねると、悠真は私を店の外まで連れ出し、車の助手席に押し込んだ。
「父上の会社のことは全部把握してる。危険が及びそうな時は……放っておけるわけがない」
彼の声は低いが、ほんのわずかに熱を帯びていた。
「でも、そんなの……」
「お前は黙って俺のそばにいろ。離れるな」
助手席のドアが閉まり、車が静かに走り出す。
窓の外を流れる夜景が滲み、胸の奥が熱くなる。
――冷たいだけだと思っていた。けれど、本当はずっと、こうして守ってくれていたのだろうか。
その答えを確かめたいのに、隣の横顔はやはり無口なままだった。

