週末の午後、私は従兄の真司に誘われ、銀座のレストランで昼食をとっていた。
 真司は父の妹の息子で、昔から兄のように私を気にかけてくれる存在だ。
 柔らかな物腰と冗談交じりの会話は、張り詰めていた心を少しずつ解きほぐしてくれる。

 「この前のパーティー、あいつ相変わらず冷たかったな。おまえ、平気なのか?」
 真司がワイングラスを軽く揺らしながら言う。

 「……平気じゃないけど、慣れちゃった」
 笑ってみせたけれど、自分でもその笑みが薄く色褪せているのがわかった。

 食事の後、店を出ると外は夕暮れに染まりつつあった。真司が送ると言ってくれたので、彼の車に乗り込む。
 たまたま信号待ちで停車したとき――。

 「……彩花」
 車の外から低い声が響いた。
 振り向けば、そこには見慣れた長身の影。黒のコートを羽織り、冷たい瞳でこちらを見下ろす悠真だった。

 「悠真……」
 名前を呼んだ瞬間、その手が開いたドアを押さえ、私を外へ引き出す。

 「何してる」
 吐き捨てるような声音。
 「た、ただ食事を――」
 「俺に黙って、他の男と?」
 「真司は従兄よ。あなたも知ってるでしょ」
 「血が繋がっていようが関係ない」

 鋭い言葉が、胸の奥を容赦なく刺す。
 「……どうしてそんな言い方をするの? 私のこと、信じられないの?」

 一瞬、悠真の瞳に揺らぎが走った気がした。けれど彼は答えず、背を向けて歩き出す。
 追いかける勇気が出せず、私はただその背中を見送るしかなかった。

 ――どうして、こんなに遠いの。
 幼い頃は、すぐそばで微笑んでくれたのに。