第五章 不器用な庇護
放課後の昇降口。
下駄箱を開けた瞬間、美鈴の顔が強張った。
中から、破られたプリントと「二股令嬢」と書かれた紙切れが落ちてきたのだ。
「……っ!」
足元に散らばる紙片を見下ろし、胸が締めつけられる。
噂がここまで広がり、ついには悪意に変わったのだと気づいてしまった。
必死に紙を拾い集めようと膝をついたとき――
「触るな」
冷たい声が響き、すべての紙を大きな手がさらっていった。
顔を上げると、そこに立っていたのは蓮だった。
「れ、蓮さま……」
彼は一枚一枚の紙を無造作に握りつぶし、無言でゴミ箱に放り込んだ。
その仕草は荒々しいのに、どこか彼らしく整然としている。
「こんなくだらないものに構う必要はない」
「で、でも……みんなの目が……」
「気にするな。おまえは俺の婚約者だ」
その言葉は、今まで何度も聞いてきた「義務」の響きとは違っていた。
まるで、美鈴という存在そのものを守ろうとするように、強く、真っ直ぐだった。
「俺の許可なく、おまえを傷つけていい人間など、この学園にはいない」
低い声に、胸が熱くなる。
冷たく見えた瞳の奥に、揺るぎない庇護の色が宿っていた。
「蓮さま……ありがとうございます」
小さく礼を告げると、蓮はわずかに眉をひそめ、顔を背けた。
「勘違いするな。おまえが傷つけば、家の名誉に関わる。それだけだ」
そう言いながらも、去っていく彼の背はどこか不器用に見えた。
その背中を見つめながら、美鈴の胸はまた大きく揺れていた。
冷たい許婚の仮面の下に、確かに優しさがある。
それを知ってしまった瞬間だった。
放課後の昇降口。
下駄箱を開けた瞬間、美鈴の顔が強張った。
中から、破られたプリントと「二股令嬢」と書かれた紙切れが落ちてきたのだ。
「……っ!」
足元に散らばる紙片を見下ろし、胸が締めつけられる。
噂がここまで広がり、ついには悪意に変わったのだと気づいてしまった。
必死に紙を拾い集めようと膝をついたとき――
「触るな」
冷たい声が響き、すべての紙を大きな手がさらっていった。
顔を上げると、そこに立っていたのは蓮だった。
「れ、蓮さま……」
彼は一枚一枚の紙を無造作に握りつぶし、無言でゴミ箱に放り込んだ。
その仕草は荒々しいのに、どこか彼らしく整然としている。
「こんなくだらないものに構う必要はない」
「で、でも……みんなの目が……」
「気にするな。おまえは俺の婚約者だ」
その言葉は、今まで何度も聞いてきた「義務」の響きとは違っていた。
まるで、美鈴という存在そのものを守ろうとするように、強く、真っ直ぐだった。
「俺の許可なく、おまえを傷つけていい人間など、この学園にはいない」
低い声に、胸が熱くなる。
冷たく見えた瞳の奥に、揺るぎない庇護の色が宿っていた。
「蓮さま……ありがとうございます」
小さく礼を告げると、蓮はわずかに眉をひそめ、顔を背けた。
「勘違いするな。おまえが傷つけば、家の名誉に関わる。それだけだ」
そう言いながらも、去っていく彼の背はどこか不器用に見えた。
その背中を見つめながら、美鈴の胸はまた大きく揺れていた。
冷たい許婚の仮面の下に、確かに優しさがある。
それを知ってしまった瞬間だった。

