許されざる婚約と学園の秘密

第四章　囁かれる視線の中で

昼休みの学園中庭。
春の陽射しの下で、たくさんの生徒たちが談笑している。
その中で、美鈴は俯きながら弁当を広げた。

――けれど、周囲のひそひそ声は、また彼女を包み込む。

「白川さんって、どっちが本命なのかしら」
「やっぱり許婚の一条くんよね。でも、朝倉くんと一緒にいるとすごく自然だし」
「羨ましいけど……正直、目立ちすぎ」

声を遮ろうとしても、耳に届いてしまう。
美鈴は小さく拳を握りしめ、唇を噛んだ。

「美鈴」

ふと聞こえた声に顔を上げると、悠真が微笑んで立っていた。
彼は迷いなく隣に腰を下ろし、さりげなく彼女の弁当箱を覗き込む。

「それ、手作り？　相変わらず上手だな」
「……ありがとう」

その優しい声に救われるように微笑み返す。
だが――その瞬間。

「……隣が埋まっているなら、仕方ないな」

低い声が背後から落ちた。
振り返ると蓮が立っていた。
冷ややかな眼差しのまま、美鈴の向かいに腰を下ろす。
周囲の視線が一層強まるのを、美鈴は痛いほど感じた。

二人の御曹司に挟まれて座る自分。
好奇の眼差しが刺さり、心臓が早鐘を打つ。

「……みんな見てます。恥ずかしいです」
小さな声で告げると、悠真は柔らかく首を振った。

「気にしなくていい。俺は、君と一緒にいたいからここにいるんだ」

「俺もだ」

蓮の低い声が重なる。
その瞳は悠真に向けられ、冷たい火花が散るようだった。

「……っ」

二人の視線がぶつかり合い、空気が張り詰める。
美鈴は居たたまれなくなり、慌てて立ち上がった。

「ご、ごめんなさい！　少し風に当たってきます」

小走りで中庭を離れる背中を追う二人の視線。
一方は切ないほどの優しさを、もう一方は鋭い独占欲を宿していた。

そしてその姿を見つめる学園の生徒たちの噂は、ますます大きく膨らんでいくのだった。