許されざる婚約と学園の秘密

第三章 幼馴染の優しさ

翌日の放課後。
美鈴は学園の図書館で、一人静かに本を読んでいた。
けれど、ページをめくる指は止まりがちで、昨夜の蓮の言葉が頭から離れなかった。

――「俺は、おまえが他の男と笑っていることが気に入らないだけだ」

冷たいはずの蓮の瞳に宿っていた熱。
思い出すたびに、胸が締めつけられる。

「……美鈴」

不意に名前を呼ばれ、顔を上げると悠真が立っていた。
彼は窓際の光を背にして、どこか心配そうな表情を浮かべていた。

「この前から、元気なさそうだよね」
「……そんなこと、ないわ」
「嘘だ。君はすぐ顔に出るから」

柔らかな声に、美鈴は胸を突かれた。
悠真は躊躇なく隣に腰を下ろし、彼女の手元の本をそっと閉じる。

「美鈴、無理して笑わなくていい。俺の前では、泣いてもいいんだ」

優しい眼差しに、不意に涙が滲みそうになる。
必死にこらえながらも、美鈴は小さな声で問うた。

「……どうして、そんなに優しくしてくれるの?」

悠真は少しの間、美鈴を見つめ、それからふっと微笑んだ。

「決まってるだろ。俺はずっと君が好きだから」

「……え?」

心臓が大きく跳ね、息を呑む。
悠真は冗談めかすこともなく、真剣な瞳で続けた。

「子供の頃から変わらない。俺は、美鈴の笑顔が一番大事なんだ」

言葉はシンプルなのに、胸の奥に深く響いた。
蓮の不器用な独占欲とは対照的な、悠真の真っ直ぐな優しさ。
美鈴の心はますます揺れ、どちらに傾けばいいのか分からなくなっていく。

「……悠真くん……」

名前を呼ぶ声は震えていた。
悠真はその手をそっと取って、温もりを与えるように包み込む。

「大丈夫。俺がいるから」

その一言に、美鈴の胸は熱くなり、涙が零れそうになった。