許されざる婚約と学園の秘密

放課後の中庭。
美鈴は一人、ベンチに腰かけていた。噂話にさらされ続けた一日で、心は疲れきっていた。

「……どうして、わたしばかり……」

そっと溜息をつく。
そのとき、影が差し、顔を上げると蓮が立っていた。

「探した」

短く、冷たい声。
美鈴は慌てて立ち上がる。

「ご、ごめんなさい。授業が終わったらすぐに帰ろうと思って……」

「帰るなら、俺に言え」
「え……?」
「おまえは俺の婚約者だ。勝手な行動はするな」

強い言葉に、美鈴の胸がざわつく。
今まで距離を置いてきた蓮から、初めて“所有”を思わせる口ぶりを聞いたからだった。

「わたし……蓮さまにご迷惑をかけてばかりで……。みんなの噂も、きっと私が悪いんです」

美鈴が視線を落とすと、蓮は静かに息を吐き、彼女の顎にそっと指をかけた。
不意に顔を上げさせられ、至近距離で見つめられる。

「……勘違いするな。迷惑など思ったことはない」

低い声。
その瞳は冷たくも鋭くもなく――ただ、美鈴を射抜くように熱を帯びていた。

「噂はどうでもいい。俺は、おまえが他の男と笑っていることが気に入らないだけだ」

「……っ!」

美鈴の心臓が大きく跳ねた。
冷たさの裏に隠れていたのは、確かに彼女だけを求める独占欲。
その真実に触れ、頬が熱を帯びていく。

「蓮さま……」

名前を呼ぶと、蓮ははっとしたように指を離し、再び冷ややかな表情を装った。

「……帰るぞ」

踵を返す蓮の背を追いながら、美鈴の胸はまだ鼓動を抑えられなかった。
冷たい許婚――そう思っていた人が、実は熱い想いを抱えているのかもしれない。

その夜、美鈴は眠れぬまま、蓮の瞳を思い出し続けていた。