許されざる婚約と学園の秘密

第八章 揺れる心、眠れぬ夜

夜。
窓の外には月が浮かび、白い光が部屋を満たしていた。
美鈴はベッドに横たわりながらも、眠ることができずにいた。

――「俺は、おまえが他の男と笑っていることが気に入らない」
――「俺は君が好きだ。子供の頃から、ずっと変わらない」

蓮と悠真、それぞれの言葉が頭の中で繰り返される。
思い出すたび、胸が締めつけられ、呼吸が苦しくなった。

枕に顔を埋め、目をぎゅっと閉じる。
だが心臓の鼓動はますます速まり、涙が滲んでいく。

「わたし……どうすればいいの……」

幼い頃から義務として決められていた婚約。
冷たいと思っていた許婚は、実は不器用に守ってくれていた。
そして、優しい幼馴染は、真っ直ぐに「愛してる」と告げてくれた。

どちらを選んでも、誰かを傷つけてしまう。
その罪悪感が、美鈴をさらに追い詰めていく。

「わたしは……ただ、静かに暮らしたかっただけなのに」

囁くような声が夜に溶ける。
その時、机の上に置かれた花束に目が留まった。
それは昼間、悠真が「元気を出して」と渡してくれた小さなブーケだった。
可憐な花々の香りが漂い、胸を少しだけ温める。

けれど――同時に思い出すのは、昇降口で自分を守った蓮の強い背中。
彼の「許さない」という低い声が、耳の奥に残っている。

「どちらも……わたしを想ってくれているのに……」

涙が頬を伝い、枕を濡らす。
選ばなければならないのに、まだ答えを出すことができない。
夜が更けていくほどに、美鈴の心は迷宮の奥深くへと沈んでいった。