許されざる婚約と学園の秘密


第七章 激突

夕暮れの屋上。
悠真の真剣な告白の余韻を打ち砕いたのは、蓮の冷たい声だった。

「――随分と熱心だな、朝倉」

悠真の瞳が鋭く細められる。
蓮はゆっくりと歩み寄り、二人の間に立った。
その姿はまるで、所有物を奪われまいとするかのように、美鈴を背に庇うようだった。

「美鈴は俺の婚約者だ。勝手に言い寄るな」

「婚約? そんなの親同士が決めただけだろう」
悠真の声は低くも、怒りに震えていた。
「本当に美鈴を大切にする気があるなら、どうしていつも冷たく突き放すんだ!」

「俺のやり方に口を出すな」
蓮の瞳が冷たく光る。
「おまえに彼女を託す気はない」

「俺は託されなくていい。美鈴自身が俺を選んでくれれば、それでいいんだ!」

二人の声が屋上に響き渡る。
美鈴は震える手を胸に当てながら、必死に二人を見つめた。

「やめて……! お願い、二人ともやめて!」

涙声が風に乗る。
しかし二人の視線は互いから外れず、火花を散らし続けた。

「蓮さま……悠真くん……」

胸が引き裂かれるような思いだった。
どちらも彼女を想っている。その想いが強ければ強いほど、二人の対立は激しくなる。

夕陽は沈み、空は群青に染まっていく。
その中で、美鈴の心もまた暗闇の中へと沈んでいった。