春の陽射しがやわらかく校庭を照らしていた。
桜の花びらが舞い散るなか、白川美鈴は新しい制服の裾をそっと押さえ、正門をくぐる。
「今日から、この学園生活が始まるのね……」
誰もが振り返るほどの可憐な容姿。しかし美鈴は目立つことを好まず、静かに歩みを進める。
その隣には、冷ややかな気配を纏った青年がいた。
一条蓮。
彼こそが彼女の許婚にして、財閥の御曹司。
端正な横顔は彫刻のように美しく、周囲の視線を独占する。だが――その瞳は美鈴に向けられることなく、冷たい沈黙をまとっていた。
「……行くぞ」
低く短い声。
それだけ告げて歩き出す蓮の背中に、美鈴は小さく頷いてついていく。
幼い頃から決められた婚約。愛を望んではいけないと分かっていても、胸の奥はどうしても切なく疼いた。
そんな時――
「美鈴……! やっぱり君だったんだ!」

